薔薇とバイクと延命剤 2

 フラワーショップの店員、モクレン。


 かつてミクリの面倒を見ていた魔法使いです。


 主に植物を相手にした魔法を得意としていて、彼女の創った魔法の延命剤は知る人ぞ知る発明品だったりします。


 そんな彼女ですが、この度うっかりミスをやらかしてしまいました。


 先程訪れたお客さんが購入した薔薇の花束に、間違えて除草剤をかけてしまったのです。


「こっちが延命剤で……。んでもってそっちが除草剤か……。小瓶の見た目そっくりじゃん」


 並べた小瓶をまじまじと見比べるミクリ。


 そして動揺しながらその場をうろうろ歩き回るモクレン。


「ああ~、どうしましょう。さっきのお客さん、これからプロポーズに行くんだって言ってたわ……」


 その様子を見てカレンはミクリの裾をつんつん引っ張ります。


「どうしたんですかお嬢様?」


「ねえ、助けてあげようよ」


 カレンは外に置いたバイクを指差します。


 さっきの男性とすれ違ってからまだ長い時間は経っていません。


 まだ追いかける余地があります。


 カレンはお花を貰ったお礼をしたいと思っているようです。


 ミクリは任せろと言わんばかりに親指を立てると、冷静な口調でモクレンへ尋ねます。


「モク姉、その除草剤ってどれくらいの時間で発症するの?」


 ミクリの問いに、おろおろしながらモクレンは返します。


「お花にかけてから30分くらいで、枯れて全滅してしまうのだけれど……」


「じゃあ、あと10分か……。新しい花ってまだある?」


「それがさっきので品切れになってしまって……」


「あ、じゃあもう詰みだ。ごめんねモク姉、私は役者不足だったよ」


 すぐ諦めようとするのはミクリの悪い癖です。


 じーっと、その顔を睨むカレン。


「じょ、冗談ですよ~お嬢様」


「ねえ、そっちの瓶のやつをかけたらダメなの?」


 延命剤の方の小瓶を指差すカレン。


「なるほど。確かにこれをかければ±0で元に戻るかも。さすがお嬢様。よ! さすおじょ!」


「えへへ」


「じゃあモク姉、それ貰うよ! 私がバイクでさっきのお客さんの花束にこの延命剤をかけてきてあげるから!」


「でも、除草剤をかけたお花に延命剤をかけたことなんてないのよ。上手くいくか分からないし……」


 後ろ向きなモクレン。


 でもミクリは諦めてはいません。


「そんなのやってみなきゃ分からないじゃん。あのお客さんだってプロポーズの時に肝心の花束が枯れてちゃあ、シャレにならないでしょう?」


「でも……」


 モクレンが何か言い掛けましたが、ミクリは颯爽とバイクで出かけていくのでした。


 …………。


 しかし、すぐに戻って来るミクリ。


「だからこれ紛らわしいんだよ~!」


 ミクリが持って行ったのは除草剤・・・の小瓶だったのです。


「だから言おうとしたのに……。そっちは除草剤の方だよって」

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