薔薇とバイクと延命剤 1

 せっかくなので、ミクリとカレンはこのままツーリングをすることにしました。


 気持ちよく風を切って突き進むバイクに興奮するカレン。


「すごい! すごーい! いけいけー!」


 初めてのバイクになんだかとっても嬉しそうです。


 因みにボディーガードもバイクで追走しています。


「そうだお嬢様、行きたい所はありますか?」


「ミクリと一緒だったらどこでも良い!」


「うーん……。じゃあ、私が行きたい所でも良いですか?」


「いいよ!」



 そしてやって来たのは、何の変哲もないフラワーショップ。


「お花屋さん?」


 呟くカレン。


「そう、お花屋さんです。でもただのお花屋さんじゃあないんですよ」


 ミクリが得意げになって答えます。


 その時、店内から赤い薔薇の大きな花束を抱えた男性が出てきて3人とすれ違いました。


 あ、3人というのはミクリ、カレン、それからボディガードです。


 それを横目にボディガードを店の外に待たせて、ミクリとカレンは入店します。


「いらっしゃいませ……あれ、ミクリちゃん? あなたミクリちゃんよね」


 店内にいた若い女性の店員はミクリと知り合いだったらしく、すぐに駆け寄って来ます。


「ミクリちゃん、あなた一体今までどうしてたの? 突然いなくなって心配したのよ」


「うん……。ごめんね」


 何やら訳ありのようですが、ミクリと店員の会話が弾んでしまってすっかり蚊帳の外になったカレン。


 店内を見渡すとカサブランカやチューリップ、トルコキキョウなど、様々な種類の綺麗な花がそこにはあって……。


 なんだか普通とは違う不思議な輝きを放つその花々の魅力に、まるで吸い込まれていくかのようにぼーっと見つめてしまいます。


 すると。


「お花は好き?」


 店員はしゃがみ込んでカレンと目線を合わせます。


 カレンは無邪気な笑顔で答えます。


「うん、好き!」


「そっかそっか、うんうん。あ、私の名前はモクレンっていうの。あなたのお名前は?」


「カレン」


「カレンちゃんか……。じゃあ、えい!」


 モクレンと名乗る店員は指をパチンと鳴らします。


 すると彼女の手元に現れたのは一輪のマツバボタン。


 煌々と桃色に輝く八重咲きの花は一瞬でカレンの心を奪いました。


「すごい!」


「良かった。そう言ってもらえると嬉しい。はい、じゃあこれはカレンちゃんにプレゼント」


 モクレンは微笑みながらその花を手渡します。


「ありがとう」


「良かったですね。お嬢様」


 ミクリも思わず笑みをこぼすのでした。



 ◇ ◇ ◇



「そうだ! ちょっと待ってて」


 そう言って一度バックヤードに戻るモクレン。


 間も無く可愛いがらの小瓶を持って現れました。


「何それ?」


 ミクリが尋ねると。


「これ? 私が作った魔法の延命剤なの。どんな切り花も1年枯れずにその状態を保つことが出来るのよ」


「へー、さすがモクねえ。でもこれって色々と割に合わないんじゃない?」


 ミクリが言うのも一理あります。


 季節にもよりますが通常、切り花の寿命は1週間から2週間程度でしょうか。


 それを1年も持たせてしまったら、客足が減るのは当たり前。


 それに魔法を使った以上、税金が発生します。


「そうなのよー。だから全っ然儲けがなくて……」


 モクレンは瓶のふたを開けると……中身の液体を3滴、カレンが持つマツバボタンの花弁に垂らします。


「あ! いけない!」


 すると何かを思い出したように、モクレンは唐突に叫びました。


「え、何? どうしたの急に……」


 ミクリが尋ねると。


「私……。さっきのお客さんの花束に、間違えて魔法の除草剤・・・をかけちゃってた」

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