迷子の魔法使い 5

 カレンの両親は魔法の才能こそ最上級の実力を誇っていますが、娘にそれを押し付けようとはしませんでした。


 あの日、迷子になったカレンは屋敷へ帰って来るや否や目をキラキラ輝かせて両親に話します。


「あのね。とーってもすてきな、まほうつかいさんがいたの。かれんもまほうつかいになる!」


 カレンは魔法を学びたいと自ら志願したのです。



 ◇ ◇ ◇



 多忙な両親は自ら魔法を教えることが出来なかった為、カレンに凄腕と噂の講師を付けました。


 でも、この講師はいつもカレンを叱責してばかり。


「こんなことも出来ないのか!」


「この無能が!」


「まじめにやれ!」


 次第にカレンの心は押しつぶされていきます。



 もうやめたい……。


 わたしの大好きな魔法はもっとキラキラしたものだったのに……。


 でも魔法使いになりたいと言ったのはわたし自身。


 だけどこんな思いをするなんて……。


 こんなに魔法が大っ嫌いになるなんて……。




 こんなはずじゃなかった、こんなはずじゃなかった、こんなはずじゃなかった、こんなはずじゃなかった、こんなはずじゃなかった、こんなはずじゃなかった、こんなはずじゃなかった、こんなはずじゃなかった、こんなはずじゃなかった、こんなはずじゃなかった、こんなはずじゃなかった、こんなはずじゃなかった、こんなはずじゃなかった……。




 魔法になんて、最初から憧れなければ良かった…………。




 そしてとうとう耐え切れなくなったカレンは、現状から逃げ出してしまうのでした。



 ◇ ◇ ◇



 カレンは屋敷内を逃げ回って……そして普段は誰も来ない納戸に隠れます。


 暗闇の中、とにかく時間が過ぎ去ってくれることを願い続けました。


 願って、願って、願って、願って……。



 とにかく願い続けたその時――。


 扉が開いて、明かりがパッと付いたのです。


「うわ! びっくりした! ってカレンお嬢様!? なぜこんな所に……」


 そこにいたのは一人の少女。


 最近よく周りから怒られている使用人です。


 いつも悪ふざけをしていて何だかよく分からない人。


 でもいま目の前で見せる何気ないその仕草。


 もっと前にどこかで会ったことがあるような気がして……。


 何だかとっても胸が温かくなるような感じがして……。


 それを確かめるように、カレンはその裾を引っ張るのでした――。

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