迷子の魔法使い 2

 お屋敷の長い廊下で使用人のアズサが床の清掃をしていると……。


「ねえ、アズサ」


 カレンがトコトコやって来て、アズサの裾をつんつん引っ張りました。


「どうしたんですかお嬢様?」


「最近ミクリの様子が変なの」


「え、そんなのいつもの事じゃないですか。あいつは誰がどう見たって変人の部類だと思いますけど……」


 平然と返すアズサ。


 おそらく屋敷内では誰もが頷く正論でしたが、カレンは首を横に振ります。


「違うの! いつも変なのは違くないけど……。でも変じゃないから変なの!」


「どういう事ですか?」


「いつもはね、ミクリは魔法のお稽古に5分くらい遅刻するの。でも最近は全然遅刻しない」


「良い事じゃないですか。ようやくミクリも大人になったかー。お姉さん感心しちゃうなあ……」


「違うんだってばー、それだけじゃないんだよ!」



 ◇ ◇ ◇



 カレンの回想――。


 今までの朝。


「ミクリ、早く起きてってばー!」


「う~ん……あと5分待ってー」


「もう! 早くしないと……朝礼にまた遅刻するよ! またサーヤに怒られるよ!」


 サーヤとはメイド長のことです。思いのほか可愛いらしい名前だったんですね。



 そして最近の朝。


「お嬢様……起きて下さい。朝でございますよ」


「……え、なに? もう朝?」


 時計を見るカレン。


「ええ!? まだ4時半だよ!?」



――回想終わり。



 ◇ ◇ ◇



「わたしは6時に起きるって決まってるんだけど……最近のミクリは毎日4時半にわたしを起こしに来るの」


「うーん……。確かに変ですね」


「ね? 変でしょ?」


「っていうかお嬢様の側近になってから遅刻が減ったなーって思っていたら、まさかお嬢様に起こして貰っていたとは……。いい歳して5才児に起こされてたって何なんだよあいつ」


 そこへ丁度、噂の人物がやって来ました。


「カレンお嬢様、そろそろ魔法のお稽古のお時間でございますよ」


 ミクリ? と思われるその人物はとてもキラキラした雰囲気を纏っています。


 そう、気品に満ち溢れているのです。


 腕時計を見るアズサ。


「お嬢様のお稽古が始まる時間の3分前か……。確かにこんな時間にキッチリしてるミクリなんて変だ」


 思わずミクリ? をまじまじと見つめます。


「どうしたのですかアズサ先輩? 私の顔に何か付いていますか?」


「お前、ミクリじゃないな? あいつは私の事を先輩なんて呼ばないし、私に対する敬意が足りないやつなんだ……。あれ? という事はあいつ、全然まったく良い所が無かったのかあ……」


 何かを納得してしまうアズサ。


 カレンは「今はそういう話をしたい訳じゃない」と言わんばかりにアズサの裾をつんつん引っ張ります。


 アズサは我に返ると、モップの柄の先端をミクリ? に向けて突き付けます。


「と、とにかく! 偽物は成敗する……チェストー!!」


 そして突きがミクリ? の額にヒットすると……その首があっけなく落っこちて、間もなく爆発して頭も身体も消滅しました。


「ふ、やはり偽物だったか」


 アズサが得意げになっていると……。


「うわあああん! アズサがミクリを殺しちゃったあああ!!」


 すっかり本物のミクリだと思い込んでいたカレン。


 あまりの衝撃に大泣きしてしまうのでした。

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