第17話 ねえ、私の見てよ、お兄ちゃんッ

「お兄ちゃん、一緒に入らない?」

「入るってどこに?」

「もう、私に言わせないでよー、わかってるんでしょ、お兄ちゃんの意地悪―」

 え? まさか、入るって……お風呂の事か?

 入るといっても、互いに異性を意識する年頃なのだ。

 梨華の裸体を想像してしまい、リビングにいる来栖尚央は怖気づいてしまう。

「でも、ランクを上げるなら、一緒に入った方がいいと思うよ」

 ソファに座っていた鈴は、お風呂に入ることを積極的に進めてくる。

 いや、でも、こんなことがあってもいいのか?

 尚央は正面に佇んでいる梨華を直視することができなかった。

 見れば見るほど、意識してしまい、どうしても向き合うことができなかったのだ。

「お兄ちゃんはどうなの? 入りたい?」

「入りたいとか、その……」

 視線を逸らしたまま、口ごもってしまう。

 本音なんて口にできなかった。

 素直じゃないとか、そういう事じゃない。

 妹に関心を抱いてしまうことに抵抗がある。

 一度でも興味を抱いてしまうと、二度と戻れないような恐怖心に襲われるのだ。

「ねえ、お兄ちゃん?」

 背丈の低い梨華が、尚央を上目遣いで見つめてくる。

 誘惑するかのような瞳を見せられ、どきまぎしてしまう。

 この場合、妹の感情を受け入れた方がいいのだろうか?

 ランクを上げるための方法としては最適かもしれない。

 尚央は一度、軽く深呼吸をして梨華を見る。

「ねえ、どうなの?」

「わ、わかった。一緒に入るよ」

 尚央は承諾するように頷いた。

 ここからはもう後戻りなんてできない。

 どんな結末が待ち受けていても、すべてを受け入れるしかないだろう。





「じゃ、早く行こッ」

 梨華は本気のようだ。

 リビングに佇む来栖尚央の腕を引っ張り、自宅内の脱衣所へと誘導しようとする。

「私は、ここで待ってるから。ごゆっくりね~」

 鈴は二人を見送る程度だった。

 本当に、入るのか。

 久しぶりというか、入ってもいいのか、逆に不安になってくる。

 目を白黒させる尚央は、現状を受け入れるだけでも限界だった。

「早く。お兄ちゃんから入って」

「お、おい、いきなり押すなって」

 梨華は尚央の背中を押し、脱衣所へと押し込んだ。

 そして、背後から扉が閉じる音が聞こえた。

「お兄ちゃん? 二人っきりで入るのって、久しぶりだよね?」

「久しぶりっていうか……そうかもな」

 実の妹とは久しぶりだ。

 けど、今、脱衣所にいる妹とは久しぶりというか、そもそも初めてなのだ。

 余計に緊張してしまい、心臓の鼓動が収まらなくなる。

 ど、どうしたらいいんだ?

 いや、相手は妹……?

 まあ、妹なんだよな。

 一応妹であることは確かだ。

 けど、血の繋がった妹ではない。

 複雑だ……。

 尚央は梨華と向き合う。

「私、脱ぐね」

「いきなり⁉」

「だって、お風呂に入るなら普通……脱ぐでしょ?」

「そうかもしれないけど……」

 いや、確かにそうだけど……。

 実際に、その場面を直視するのは……。

 心がどうにかなってしまいそうで、心が安定しない。

「いいから、見てて♡」

「み、見せなくてもいいよ」

 尚央は視線を逸らす。

 どうすればいいんだ?

 これって……。

 見た方がいいよな。

 相手がしてほしいこと、やってほしいことをすれば、ランクが上がりやすくなる。

 この世界ではランクを上げた方が、色々なことがしやすくなるのだ。

 ここはひとまず、妹の……本当の妹じゃないけど、着替えを見た方がいいだろう。

 梨華がその行為を求めているのなら、その想いを受け入れた方がいいのかもしれない。

 尚央は妹が上着を脱ぐところをチラッと見る。

 梨華は、ブラジャー姿になっていた。

 小学生なのに、大人びていると思ってしまう。

 まだ背伸びした姿はあまり似合わないような気がする。

 尚央は考え込むと、梨華の似合わないブラジャー姿にくぎ付けになっていた。

 アンバランスな雰囲気に、魅力を感じてしまうのだ。「お、お兄ちゃん?」

「な、なにかな」

 突然の梨華の呼びかけに、ドキッとして彼女の顔を見る。

 彼女の頬は紅葉していて、軽くお腹を押さえ、恥じらっているのだ。

 ブラジャーの方を隠した方がいいような気がするのだが……。

 まあ、梨華のことだ。見せたいのかもしれないな。

「お兄ちゃん、ちゃんと私の着替え見てる?」

「う、うん」

「じゃあ、どう、かな? 私の姿」

 梨華は両手でブラジャー越しにおっぱいを軽く触る。

 そんなに大きい方ではなく、程よい感じでもない。

 妹が触っているところを見れば、小さいのだと思えた。

「いいと思うけど」

「どういう意味で?」

「なんというか……程よい感じでさ」

 尚央は途切れ途切れの口調で言う。

 本音を口にすれば、妹が傷ついてしまう可能性がある。

 余計な発言は慎むことにしたのだ。

「ねえ、嘘でしょ?」

「何が?」

「だって、私……小さいよ。程よい感じでもないと思うし」

 梨華は不満げな口調になる。

 大きいとか、小さいとか。

 それ以前に妹は……小学五年生なのだ。

 そんなこと、気にする必要性なんてない。

「お兄ちゃんはどうなの? 大きい方が好きなの?」

「好きっていうか。俺は、今の妹のままでいいよ。そんなに気にしてないし」

「なんで?」

「え?」

「なんで、そういうの。気にしてくれないの?」

「梨華はさ……まだ、小学生だろ? そこまで気にしない方がいいんじゃないか?」

「気にするし」

「どうして?」

「だって、お兄ちゃんに意識してほしいし。お兄ちゃんが大きい方がいいなら、私、色々するよ」

 梨華は涙目になっている。

 妹から必死さが伝わってくるのだ。

「そんなに泣くなって」

「泣いてないし」

 そんなに気にされないのが嫌なのか……。

 でも、俺は別になんだっていい。

 妹とは普通の関係性でいたいのだ。

 ただ、それ以上の関係性を求めているのなら、尚央はまだ、受け入れる勇気を出せなかった。

「梨華さ、一緒にお風呂に入るってことだけど。互いに全裸のまま入るってこと?」

「そ、そうだよ。どんな感じに入ると思ってたの?」

 梨華は頬を赤らめ、必死に自分の言葉で伝えてくるのだ。

「だからね、お兄ちゃんも一緒に脱いで」

「お、俺もか」

「うん、じゃないとおかしいでしょ?」

 尚央も気まずそうに上着だけ脱ぐ。

 上半身だけ裸体を晒すことになった。

「お、お兄ちゃんの体。触ってもいい?」

 梨華が距離を縮めてくる。

「いいけどさ」

 尚央は活舌が悪くなった。

 妹の小さな指が、尚央の胸元に当たる。

「やっぱり、しっかりとしてるね」

「そういうこと言うなよ。変に意識してしまうというかさ」

「私、そういう感情を抱いてほしいの」

 梨華は色っぽく、小学生ではない口ぶりだった。

 尚央はそんな妹の妖艶さに、少々戸惑う。

「お兄ちゃん、私のも触ってもいいよ」

「……そういうのはさ」

「私は触ってほしいの。お兄ちゃんが私に興味を持ってくれたら、嬉しいし♡」

 嬉しいのか。

 梨華のランクが上がると考えれば、やらないという選択肢はないのかもしれない。

 尚央はブラジャーで隠れているおっぱいへと、手を向けようとした。

 本当に触ってもいいのか?

 いや、触ってもいいって、梨華が言ってるし……。

 緊張する。

 妹から求められている行為をしようとしているだけなのに、どうしても躊躇ってしまう。

「お兄ちゃん?」

「なに?」

「面白いね」

「な、何が?」

「お兄ちゃんの態度だよ」

 梨華は兄である尚央の不自然な言動を見て、軽く笑い始めた。

「だって、梨華が触ってもいいって」

「だったら、すぐに触ってよ。もう、じれったいね、お兄ちゃんは」

 梨華は尚央の胸元を軽くなぞってきたのだ。

「んッ」

 妹から性感帯を弄られ、変な口調になってしまう。

「お兄ちゃんが早くしないからー、お仕置きッ」

「んッ、ごめん」

「もしかして、私のが小さいから、触らなかったとかそういうこと?」

「違うから。それは本当にさ」

 尚央は必死に否定する。

 余計に勘違いされても困るからだ。

「もうッ、そういうの、ダメだよ。触らないと」

 梨華は軽く頬を膨らませつつも、笑顔を見せてくれる。

 そんな妹の仕草にドキッとしてしまう。

「それより、早くお風呂に入ろ」

「そうだな。そのためにここにいるんだしな」

 尚央は頷くような口調。

 梨華が距離を撮った瞬間――

 ブラジャーを外し、おっぱいを晒してきたのだ。

「――ッ」

 尚央は突然の言動に困惑し、動揺する。

 まさか、直接、梨華のおっぱいを見ることになるなんて、想像もしていなかった。

「ちょっとさ、隠したら?」

「なんで、お兄ちゃんー、恥ずかしいの?」

 梨華は照れ笑いをしながら、おっぱいを強調してくる。

「ねえ、もっと堪能してみる♡」

 梨華は尚央の腕に抱きついてきた。

 微かにだが、妹のおっぱいの感触が、腕へと伝わってくる。

 ずっと、おっぱいばかり感じていたら、どうにかなってしまいそうだ。

「梨華、ちょっと離れてくれないか?」

「やっぱ、恥ずかしいの? お兄ちゃんー」

「そ、そうだよ」

 尚央は素直に呟く。

「私の胸で感じてくれてるってこと?」

「ま、まあ、そうだな」

 尚央は妹の喜ぶ姿を見て、内心、嬉しくなった。

 ロリコンではない。

 ましてや、恋愛対象でもないのだ。

 けど、女の子が……いや、梨華が喜んでくれているだけで、心が満たされていく。

 妹とこうして一緒に肌を触れ合ったのは何年も前の話。

 異性について深く考えなかった時とは全く違う。

 ただ、女の子の肌という感覚ではない。

 如何わしい気分に陥ってしまうほど、梨華の肌の温もりを感じていたのだ。

 嬉しくもあり、恥かしさもある。

 尚央は愛くるしい姿の妹の体を抱きしめるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る