第16話 ランクの上げ方はね、お兄ちゃんが私にね…♡

「ランクは、そうですね。この世界で生きるために必要な称号的なものですかね」

「称号か」

 来栖尚央はソファに座り、隣に居る年下の女の子の話を聞いていた。

「後ですね、ランクはですね。兄、妹ランク共に、他人を思いやることが重要なんです。心への問いかけが一番有効的なんです。そこを抑えて日々行動すれば、ランクが上がりやすくなると思いますよ」

 二人目の妹になった、天貴鈴が淡々とした口調で言う。

「でもさ、ランクって、どこで確認するんだ?」

 尚央は辺りを見渡す。

 どこかにランク表みたいなものが表示されているというわけでもない。

「お兄ちゃん。ランクはね、体の一部に浮き上がるんだよ」

「浮き上がる?」

「そう、これねッ」

 妹の梨華はソファから立ち上がるなり、尚央の正面に立ち、胸下のところまで服を捲るのだ。

「お、おい、ちょっと待ってよ」

「ねえ、ハッキリと見てよ、お兄ちゃん」

 梨華のお腹のところに、アルファベットのような記号が刻印されている。尚央は視線を離すわけではなく、少しじっくりと見てしまう。

「ねえ、お兄ちゃん。私のお腹触ってもいいよ」

「えッ?」

 梨華に言われ、正気を取り戻し、咄嗟に妹の顔を見やった。

「私はお兄ちゃんに触られてもいいし。えっとね、さ、触ってほしいの」

「な、何を急に? 俺は妹に対して、そんな……」

「もう、お兄ちゃん。私のこと、また妹って」

「ご、ごめん……り、梨華」

 妹の名前をストレートに口にするのは気恥ずかしい。

 妹といっても、本当の妹ではないのだ。

 でも、そういえば、本当の妹の名前って?

 冷静になって考えてみれば、実の妹の名前を思い出せないことに、今気づいたのだ。

「お兄ちゃん?」

「梨華?」

「……なんか、恥ずかしい」

「なんで?」

「だって、そんなにまじまじと見られて、名前を言われるのは、なんか、恥ずかしいって思っただけ」

「せっかく言ったのに」

「もう、いいのッ、その話はいいから、わ、私のお腹を触って」

 ほ、本当に触ってもいいのか?

 梨華は、その思いを、心の底から訴えかけるように伝えてくるのだ。

 触ってと、真剣な眼差しを見せ、頬を赤らめている。

 ここは、妹の問いかけを受け入れた方がいいのかもしれない。

 尚央はソファに座ったまま、お腹へと手を伸ばす。

「ひゃあッ、つ、冷たい」

 梨華は恥じらった感じに、小さく喘ぐ。

 もじもじした感じに、妹は口元を軽くしめている。

 梨華の肌は柔らかかった。

 生まれたばかりの優しい触り心地。

 そもそも、妹はまだ小学五年生なのだ。

 新鮮な感じがあってもおかしくない。

「ねえ、そこもだけど、もう少し下のところだよ」

「え?」

 下のところって……いや、そこはちょっと。

 尚央は反射的に動じてしまった。

「ねえ、お兄ちゃん……? もしかして変なことを想像してた?」

 妹はジト目で尚央をまじまじと見つめている。

 頬を紅葉させ、不満そうな表情を見せつつも、思いを伝えてくる感じだった。

「お腹の下って言ったら、あそこしか……」

「もうッ、お兄ちゃん。なんで、そういうこと考えるかなあ」

「え……」

「お兄ちゃんは、アルファベットの記号が浮かび上がってるところの上の部分を触ってるから、もう少し下って意味だからね」

「あ、そういうことか」

 尚央は現状を把握し、内面から恥かしさを交えた熱さが込みあがってくる。

 な、何を考えてたんだ、俺は……。

 冷静に考えてみれば、確かにそうだ。

 鈴がいる環境下で、そういう行為はありえない。

 そもそも、妹とは彼氏彼女という関係性ではないのだ。

「でもね、お兄ちゃんにならいいよ。後でならね♡」

「んッ」

 いや、なんで見るからにやる前提でそんなことを口にしてるんだよ。

 本気そうな顔で見てくるなって。

 尚央は必死に恋愛的な感情を抑えていた。

 梨華から如何わしい表情で見つめられ、誘惑するかのような口調で問いかけられると、変な気を起こしてしまいそうになる。

「お兄ちゃん、早く下のところを触ってよー」

「あ、ああ」

 恥ずかしい。

 ただ、妹の肌を触っているだけなんだ。

 いや、触っているだけでも、相当変態的なシチュエーションだろう。

 昔、実の妹と一緒にお風呂に入っていた時のことを思い出し、言動がぎこちなくなる。

 幼い頃は、普通にエロいことなんて全く考えることなく、普通にお風呂に入っているだけだった。

 いつも一緒にいて、血が繋がっていることもあり、妹の裸体を見ても、そんなに興奮することなんてなかったのだ。

 けど、今、瞳に映っている妹の姿を見ていると、不思議と興奮してくる。

 ロリコンではないはずなのに、性的な感情へと気持ちが侵食されていく。

「ひゃ、んんッ、そこは、もうー、少し下だよー」

「ご、ごめん」

 尚央は妹の変なところを触っていたようだ。

 少し指先を下へと向かわせていく。

「ん、ひゃあん、もう、お兄ちゃん、私の肌で指を滑らせないでよ。んッ、あんッ」

 梨華の喘ぎ声を聞き、尚央も気恥ずかしくなった。

 いや、兄妹同士で、な、何をしてんだよ、俺は……。

 尚央は冷静さを取り戻す。

 変なことをしている実感があり、尚央は肌から手を離そうとする。

「な、なんで、離そうとするの?」

 急に梨華から、その手を掴まれるのだ。

「え?」

 妹は左手で、服をめくっている状態だった。

「もっと、触ってよ。私のランク記号を指で触ってないでしょ」

「そ、そうだけどさ」

 尚央は梨華から視線をそらしてしまう。

「だからね、どんなものか、お兄ちゃんに確かめてほしいの」

 妹のへその下にあるアルファベット記号を見る。

 少しだけ、その記号が光り輝く。

 その記号はFである。

 Fといえば、低いランクだと聞いた。

 俺が梨華を思いやる度合いが低いからなのか?

 尚央は妹の方を見る。

 梨華は瞼を涙のようなもので濡らしていた。

「ご、ごめん。変な触り方だった? だったら、ごめん」

 尚央は咄嗟にお腹から手を離し、ソファから立ち上がった。

「違うよ」

「違うって、どういうこと?」

「私ね、嬉しかっただけだし」

「その涙は?」

「嬉しいから、そ、そういう事、察してよ」

「これだけで?」

「うん」

 梨華は頷く。

「私、お兄ちゃんから意識されていないと思ってたし。ようやく私に興味を持ってくれたのかなって思うと、嬉しくて」

「いや、そんなに泣くなって」

 尚央は妹の頭を軽く撫でてあげる。

「そ、そんなに頭を撫でないでよ。なんか、子供扱いされている見たい……」

「子供って、俺より年下だろ。それに、まだ小学生なんだし」

 尚央は優しく撫で続ける。

 梨華は小動物のように愛らしく、懐くように甘えてくるのだ。

「うん……だ、だよね。私、まだ、小学生なんだもんね」

 妹は悲し気な口調。

 何かを求めるような話し方に加え、どこか、不満げな思いが、尚央の肌を通じて、心へと伝わってくる。

「り、梨華ちゃん……?」

 ソファに座っている鈴が、伺うように話しかけてくるのだ。

「はッ、いや、その、これはね。お兄ちゃんチャージなのッ、そうなの」

 梨華は慌てている。

 尚央から頭を撫でられ、その余韻に浸ってしまい、今置かれている状況を忘れていたようだった。

 知られなくない一面を同級生の鈴に見られてしまい、尚央から少しだけ距離をとり、俯きがちに声が小さくなる。

 普段は強気な姿勢で、ぐいぐい来るのに、今では普通の女の子のように見えた。

 妹らしいというか、そもそも、それが梨華の本来の姿かもしれない。

「普段は誘惑してくるのに、俺から頭を撫でられるのは、恥ずかしいのか?」

「……そ、そういうのは、言わないで、よ……お兄ちゃん……」

 梨華は恥じらいを見せ、掴んでいた服を下ろし、輝く記号を隠した。

「梨華ちゃん、ちょっと待って」

 鈴が突然、立ち上がった。

「ど、どうしたの、鈴ちゃん」

「さっき、お腹のところが変化したように見えたんだけど。もう少し詳しく見せてくれない?」

「う、うん」

 梨華は頷き、愛らしい笑顔を軽く見せるのだ。

 妹は再び服をめくり、お腹を露出する。

「やっぱり、そうね」

「何か、私の体に何かあったの?」

「違うよ。変化してるの。お兄ちゃんも見て」

 尚央は鈴の問いかけに従い、梨華のお腹へと視線を向けた。

 僅かにだが、何かがさっきと違う。

 光り方?

 いや、そうではない。

 記号が異なっているのだ。

「E?」

 尚央は呟く。

「そうだよ。梨華ちゃんのランクが上がったの」

「え、ほ、本当に⁉」

 梨華は興奮気に自身のお腹へと目を向けた。

 確かに、記号が変わっている。

 Fではなく、Eなのだ。

「私、ようやくランクが上がったああ」

 妹は喜び、尚央に抱き着いてくるのだ。

 近くに同級生がいるのに、お構いなしだった。

 梨華は変化できたことに、羞恥心よりも嬉しさの方が勝ったようだ。

「ねえ、お兄ちゃんッ、これで、前進できたね♡」

「あ、ああ」

「お兄ちゃん?」

「まだ、何かしてほしいのか?」

「うん。私の頭を撫でて♡」

「その、鈴が見てるけど?」

 鈴は二人がいちゃつくところをまじまじと見ている。その光景を見ている彼女の方が、頬を赤らめ、逆に恥ずかしがっているのだ。

「いいから、早くー♡」

 甘えた声で呼びかけてくる。

 尚央は妹の頭を軽く撫でた。

 昔、実の妹にも、こういう風に優しくしてあげていた記憶を思い出す。

 懐かしい。

 けど、本当の妹がどこにいるかなんてわからないのだ。

 今はランクを上げるしかない。

 そうすれば、この世界が何なのかが分かるかもしれないからだ。

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