第9話:明日はどうしよう

「ごめんねっ、待たせた?」


「いや、俺もさきほど来たばかりだ」



 少し小走りしていつもの集合場所に着くと、もう3人とも着いてて、おしゃべりしてるところだった。あ〜、やっぱり試合に夢中になっちゃったのまずかったかな〜。




 すぐに終わる予定だった今日の部活は、男子バスケ部の思わぬクロスゲーム(接戦)をみんなで観戦しちゃって、結局いつもより遅くなっちゃった。


 でも、竜ヶ水くんのプレイはかっこよくて。見られたことはとても良かった。



「よし、じゃあ鯉沼さんも来たことだし、僕たちは帰るよ。…ファイト、つばさ」


「…おう」


「またね〜2人とも〜♪」


「あ、うん。またね、小鳥遊くん、美香ちゃん」



 そう言って、小鳥遊くんと美香ちゃんはもう帰って行っちゃった。もう少し話したりしないのかな、とも思ったけど、まあ、2人っきりの時間をたくさん過ごしたいよねっ?



「それじゃ、私たちも帰ろっかっ」


「·····」


「竜ヶ水くん…?」



 わたしたちも帰るべく、竜ヶ水くんに声をかけると、なんだかそわそわしている。なんだろう、なにかあったのかな。



「こ、鯉沼」


「うん」


「その…」



 そう言って、竜ヶ水くんは制服のポケットから封筒らしき物を取り出した。






「実は、先ほど手に入れてな。……よかったら明日、一緒に映画館に行かないか?」




 ·····


 ·····


 ·····




「あぁっ!!!!!!」


「!? ど、どうした鯉沼」



 思わず出してしまった声が思ったより大きくなっちゃって、竜ヶ水くんを驚かせてしまった。女の子として恥ずかしい。 っていけない、竜ヶ水くんを放置しちゃってる。



「あ、いや、ゴメンね。……わたしも竜ヶ水くんを誘うつもりだったのに、さっきまでそのことを忘れちゃってたから」


「そ、そうだったのか。それは、なんだか嬉しいな。同じことを考えていたとは」


「そうだね。でも、“さっき入手した”って?試合の賭けはなかったことにされたんでしょ?」


「む、なぜ賭けのことを…、ああ、子安先輩が話したのか。これは元々小野先生の私物だったのだが、ご自身が行けなくなったらしく、せっかくならとおっしゃって、俺にくれたんだ」


「え、小野先生の私物だったの?」



 小野先生は男バスの顧問の先生で、今日はテスト休み前ということもあって、確かに練習終わりにいらしてたけど。そんなことをしてくれたなんて…



「あれ、でもこれカップr」


「それ以上の詮索はNGだ、鯉沼」


「う、うん」



 さすがに人の恋路は詮索しちゃダメだよね。でも小野先生がか〜。いったい誰なんだろう? わたしでも知ってる人だったりして。まさかね〜。




「それで、その。…一緒に、どうだろうか?」


「うん、もちろん。楽しみにしてるねっ!」


「そうかっ! ……で、では、チケットが“明日の15時”のものなんだが、何時にどこで集合するかなんだが」


「映画館って、中央駅の6階にあるあそこだよね? だったら、11時に中央駅広場はどうかな?」


「なるほど。わかった、では“明日11時に中央駅広場”で会おう」



 日程が決まって、竜ヶ水くんはなんだか嬉しそうに笑う。わたしも楽しみだから、それがとても嬉しい。思わず帰り道でスキップしたくなっちゃうくらい。






「明日がたのしみだなぁ」








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「ーーで、明日何を着ていくか、相談に乗って欲しいんだ?」


『うん…』



 電話越しにまといが恥ずかしそうに返事を返す。まったく、彼氏が出来たとたんにこれとは、うちのまといはホント可愛いなあ。



「可愛いなあまといは」


『サーヤちゃん!!!!!!』


「ありゃりゃ、心の声がもれちゃってたか」


『う~!!!!!!』



 まといとはワタシが小5からの付き合いで、学校とかでは『沙彩先輩』って呼んでくるけど、今でもプライベートの場では、昔と変わらず『サーヤちゃん』って呼んでくれる(なつかれてるのかな?)。『みんなのお姉ちゃん』なんて言われてるけど、ワタシにとっては今もまといは、可愛い可愛い妹分だからね。ーーこんな可愛い後輩をもてて、ワタシは幸せ者だなぁ。



『それで、何来て行けばいいのかな…』


「う~ん、まあ一番無難なのは、相手の好みに合わせて選ぶことかな。竜ヶ水くんはどんなのがすき、みたいなのってある?」


『えっと確か、奇抜だったり、落ち着きがなかったりする人は苦手だって言ってた』


「ま、それは見てたらなんとなく分かるよね」



 まとい自身も騒がしいのはあんまり好きじゃないし、同じ感性の人を好きになれて良かったよ、ホント。



「ってアレ?わかってるならワタシに相談する必要なくない?ようは“あんまり派手じゃない、落ち着きのある服装”を選べば良いんだよね?」


『……サーヤちゃん、わたしの服のどこに“落ち着き”があるって言うの?』


「えぇ? ·····ああ、そういうこと? 気にしなくて良いと思うけど」


『そもそも誰のせいでばっかりになったと思ってるの!?』



たまらずって感じで、まといが電話越しに吠えてきた。ちょっと近所迷惑!


 まあわかんなくもないかな。まといは自分で服を買いに行こうとしないから、よくまといのママさんに頼まれて、ワタシがまといの服を一緒に見に行って選んでた。だから当然、買う服にはワタシがまといに着て欲しい服が選ばれるわけで。


 一言で言えば、まといの服はほとんどがロリータ系。奇抜なデザインこそないけど、とても“可愛らしい”服になっている。多分それを気にしているのかな。



「そんなに奇抜なやつはないはずだけど」


『うん。そこはそんなに問題ないんだけど、私がそれを着ると、女性っていうよりおませな小学生みたい、って言われたから』


「ちょっと待ってそれ誰が言った」



 それはさすがに申し訳ないかなぁ。まさかそんな悩みを抱えることになるなんて。とりあえずソイツはおしおきしよう。あとで女子グループに流そう。



「ごめんね、まとい。ワタシの趣味のせいで」


『ううん、服を代わりに選んでくれたのはありがたかったし。ーーそれに、お母さんが忙しいときにかまってくれたの、姉が出来たみたいで、とっても嬉しかったし…』


「まとい…!!!!!!」



 まといには年の離れた妹がいて、その子を身篭ってから、まといママさんはあんまりまといにかまえなくなってしまった(もうまといは親離れしてたけど)。


 だから当時、ワタシはまといママとワタシの母さんから頼まれて、よく一緒に過ごしたわけなんだけど。ーーひとりっ子のワタシからしたら、妹が出来たみたいで嬉しかった。それをまといも感じてくれてたと思うと、とても嬉しい。


ーーとりあえずまといの可愛さに免じて、おしおきは許そう。次はないけど。



「まといこんなにいい子なんだから、服が可愛すぎるくらいで、竜ヶ水くんはまといを嫌いになるわけないじゃん」


『そうかな…』


「むしろ可愛すぎて襲わないか心配するレベルね」


『こ、コラー!!!!!!』



 うんうん、まといは怒ってても可愛い。



「だいたい、竜ヶ水くんはまといの性格を好きになったんでしょ? ……まといは竜ヶ水くんのこと、信用出来ない?」


『ぅあぅっ、そ、それはずるい…』


「出来ないの?」


『……ううん』


「なら大丈夫、自信持ちなさいな」


『うん…』



 ……なんだろう、まるで我が子のように可愛い。まあそれはいつものことだけど。


 よし。ここはひとつ、2人の距離が近づくために発破をかけよう。



「ねぇねぇまとい。ワタシからひとつ“ミッション”をさずけよう」


『み、ミッション?』


「えっとね〜…」







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【おまけ:翼サイド】




「結斗。明日着る服なんだが」


『一番好きなの着たら?』


「それでいいのか?」


『それでいいと思うよ。つばさ何着ても決まるし、服のセンスも悪くないから。っとあれ、神宮先輩からだ。ちょっと待ってね·····。ふ〜ん?』


「どうかしたのか?」


『いや、なんでも。そうだつばさ、明日は鯉沼さんと距離を縮めるためにも、少し頑張ってみてよ』


「???」






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読んでくださり、ありがとうございました。




なろうでも結構勘違いされたので補足すると、

結斗は社交的な性格で、

クラスメイトとバスケ部の個人LI○Eは

全部持ってるタイプです。

(女子のまで全部持ってるのは結斗くらい)

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