第5話:テスト期間への移行に

「疲れた…」


「怒涛の質問攻めだったね」



 更衣室で鯉沼と付き合っていることがばれ、さてどうなるかと思い登校した翌日(つまり今日)。もうすでにその話は広まっており、朝から多くの生徒に詰め掛けられた。俺は今まで何人もの告白を断っている。そんな男が付き合いだしたとなれば、気になるのは当然のこと、なのかもしれない。


 とても疲れたが、幸いなことに、文句を言ってくる者はいなかった。羨ましがる者は何人かいたが、少しからかわれる程度で、恨みがましい視線や言葉を向ける者はいなかった。ーー結斗のときもそうだったことを考えると、この学校の生徒は、俗に言う“民度”が高いのかもしれない(民度の使い方の正しさは、この際考慮しない)。



 そして現在は昼休み。この高校にはちゃんと食堂があり、メニューも充実しているのだが、立地的に教室から遠く、混むらしいため、俺と結斗は今まで、部活動の集まりで呼ばれたとき以外は行ったことがない。


 そのため、弁当を持参するか、惣菜パンなどを買うかして、教室で食べている(購買部は近いし、登校中にコンビニで買うという選択肢もある)。少ないときは俺と結斗の2人で食べるが、大抵の場合は同じクラスの男子と食べることになる。



「にしても竜ヶ水に彼女ができるとはなあ」


「一時期“人間嫌い”とまで言われた、あの竜ヶ水がなぁ」


「お前たちは何目線なんだ?」



 今日一緒に昼食を食べているのは、小学校からの付き合いになる菅原と安部だ。安平高校は俺たちが通っていた小学校の近くにあるため、小・中・高と一緒の生徒は、一定数いる。この二人はそういった生徒で、今年はクラスも同じになった。結斗を見て身長の低さをバカにしてくる者が多かった当時、この二人はそんなことが一切無かったことが、こうして交友関係を深めるきっかけになったと思う。




「それで。明日からどうすんだよ」



 そろそろ昼食も食べ終わる、というタイミングで、菅原から質問を投げられた。



「明日から、とは?」


「いや、明日からつきあい始めて初めての休日だろ?お姉ちゃんとデートにでも行かねえの?」


「明日からテスト期間で部活もなし。幸いお前も鯉沼さんも成績は良いんだ。多少は羽を伸ばす意味合いでそういうことしても、いいんじゃね?」



 菅原に続いて安部からも進言され、俺はなるほどと思った。


 普通カップルと言われて思い浮かべるのは、おそらく多くの者の場合『デート』と答えるだろう。しかし俺と鯉沼はともに部活動に参加している身。土日祝日にも部活が入っており、多くの場合午後からの練習なため、あまりそういった時間がとれないことが予想される。


 その点、今回のテスト休みはありがたい。ここを逃すと、しばらくは練習が続くため、たしかに誘うなら今週末しかない。



 そうと決まれば、今日の帰りにでも誘うとしよう。



「二人とも、感謝する」


「おう、惣菜パン一個おごりな」


「わかった」


「「いや冗談だから」」



 しかしどう誘えば良いのか。結斗に聞k、いや、ここは自分で考えるべきだろう。さて、どうするか…






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「二人ともありがとう、つばさにアドバイスしてくれて」



 竜ヶ水がトイレに行ったタイミングで、小鳥遊が俺と安部に礼を言ってきた。



「なんだよ、他人行儀な。俺たちの仲だろう? なあ、菅原」


「そういうこった。相変わらず律儀なやつだなあ、お前は」


「まあね。それに今回は、つばさも機嫌が良くなってたし」


「……((なんで見ただけで分かるんだよ、、、))」


 ……やっぱ竜ヶ水の一番の理解者はコイツだわ。






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「ねえねえまといっ、竜ヶ水くんとデートするのっ?」


「えっ!?」



 その日の部活中、外に出てからすぐに、わたしはほかの一年部員から詰め寄られた。


 これは余談だけど、安平高校では男女バスケ部、男女バレー部、男女バドミントン部が体育館を使っていて、体育館は一棟、面積はバレーコート3面分(バスケットコートだと2面ちょい)しかない。


 そのため、バスケ部は平日練習では最初1コートを男女半々で使い、後半は交代交代でオールコートメニューをやることにしている。今日は女子から先にオールコートメニューをこなして、今は体育館入り口にあるスペースで体幹トレーニングをするために出てきたところだ。



 閑話休題それはともかく



「こらこら1年、まだ練習は終わってないぞ~」


「「「「「「サーヤ先輩(/沙彩先輩/キャプテン)!」」」」」」



 わたしたちが固まっていると、キャプテンの神宮沙彩じんぐうさあや先輩がこちらにやってきた。


 沙彩先輩は女バスのなかで一番キャリアが長くて、小学3年生の頃からやってる人だ。わたしは小4からで、沙彩先輩とは小・中・高と、もう7年目の付き合いになる。


 だからというのもあるけど、沙彩先輩はとても頼りになる。分からない授業内容を教えてくれたり、相談にのってくれたり。わたしに姉はいないけど(妹はいる)、もしいたらこんな感じなのかなあ、っていつも思ってる。



「すみません、沙彩先輩。騒がしくしてしまって」


「あはは、まあ今日はもう体幹やったら終わりだし、別に良いんだけどね」


 先生に目付けられたら嫌だからほどほどにね、とウインクしながら言う沙彩先輩は、本当に様になっている。






「それで、さっきはなんの話してたの?」


 体幹メニューもそろそろ終わりのところで、沙彩先輩に声をかけられた。



「竜ヶ水くんとデートするのか、って聞かれて」


「あ~、ワタシも今日聞いたよ。おめでとう!」


 そう言って沙彩先輩は、わがことのように喜んでくれる。それがとっても嬉しい。



「それで、和奏会長に相談して、せっかくの機会だから、今週末どこか行けないか竜ヶ水くんを誘ってみようかな、って」


「へぇ~、いいんじゃない。楽しんでおいでよ♪」


「はい。と言っても、まだ誘ってないので、決まったわけではないんですけどね」


「何言ってるの。可愛い彼女の言うことを聞かない彼氏なんていないって、六法全書にも書いてあるわよ?」


「さすがにそれは嘘だって分かりますよ?」


「·····」


「·····」


「う〜ん、高校に入ってから、まといの“かかり”が弱くなったなぁ。ちょっと前までは、『ワタシ、実は宇宙人なの!』って言っても信じてくれたのに」


「いつの話ですかそれ!!!!!!///」



 紗彩先輩はとても頼りになるし、素敵な先輩だけど、時々こうしてわたしをいじめてくる。こういうところまで姉っぽくなくてよかったのに…






「あれ、なんだか体育館が賑やかだね」


「そう言われれば」



 現在体育館では、男子バスケ部、男女バドミントン部、男子バレー部が練習をしている、はず。しかし中からは練習のかけ声ではなく、歓声に近いものが聞こえてくる。現に今、女バスのほとんどが体育館に視線を向けている。



「みんなどうしたの、体育館見て」



 沙彩先輩の問いに、一番近くにいた子が答える。どうやら、男バスが練習の締めに1年対2年の5対5ゲーム(10分1本勝負)をしているみたいで、それがかなり白熱しているらしい。試しに得点を見てみると、


『残り2分半:17対16』


 と、1年リードとはいえ1点差ーー、いやちょっと待って!



「いやいや、どんだけハイペースなの」



 これが、互いの得点源である、竜ヶ水くんと天城先輩が最初から出てたなら分かるよ? でも、これは練習の締めだから、みんなを出す都合上、二人とも残り5分になってから出てるはず。なんでこんなにハイペースに…?






「おや、もう体幹トレーニングは終わったのかい?」



 わたしたちが試合に唖然としていると、突然声をかけられた。そちらを見てみれば、男バスマネージャーの子安麻那こやすまな先輩がいた。手にキーパー(正式名称は知らないけど、給水タンク?)を持っていることを考えるに、先にそれだけ洗いに行ってたのかな。



「あ、マナ! いや、やけにハイペースだからさ」


「ああ、男バスのゲームか。いやはや、まさかここまでみんながやる気になるとは思わなくてねえ」



 そう言う子安先輩は、なんだか楽しいやら恥ずかしいやら、そんな顔でつぶやくのでしたーー

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