第4話:『学校のマドンナ』

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「ーーそれで、結局大勢の方にばれてしまい、朝から質問攻めにあった、と」


「はい…」



 そして、現在は金曜日の登校時間。付き合いだして五日目にして、早くも大勢の人にばれてしまいました。さすが竜ヶ水くん、影響力は伊達じゃないね。おかげでとても疲れちゃった…


 ただ、なにも悪いことだけじゃなくて。



「ですが、少し安心しました。お友達の皆さんからは、お祝いしてもらったんですよね」


「はい。自分の家族が経営してる喫茶店でお祝いしようって言う子もいて、断るのが大変でした」


「ふふっ。仲のいい方がいっぱいで良かったです」



 みんなにバレたときは、誰かから言いがかりを受けるかも、と心配していたけど、その心配は杞憂だった。というか、すごく可愛がられた。なんで?竜ヶ水くんはとても人気な男子生徒の1人で、友達の多くは狙ってたと思うんだけど・・・



「何はともあれ、鯉沼さんに何事もなくて良かったです」


 そう言ってにこりと微笑む生徒会長。はぁ〜、癒される〜。



 生徒会長の和奏わかな百合子先輩は、落ち着いた雰囲気と微笑を携えた大人な女性で、とても18歳には見えません(余談ですが、安平高校の生徒会長選挙は、毎年11月にあります)。加えて身長が168センチあり手足も長く、出るところは出て、引っ込むところは引っ込む。まさに理想的なプロポーションを誇っています。『学校のマドンナ』と言われるのは、納得です。


 誰に対しても物腰の柔らかい受け答えで、仕事はいつも正確。わたしの憧れる方の1人です。



「そ、それで、会長にご相談がありまして」


「私にですか…?」


 そう言って会長は、話を聞く体勢をつくってくれました。会長は口が堅いし、相談するなら、頼りになる人がいいもんね。


「それがーー」






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「それでは会長、相談に乗っていただき、ありがとうございました!」


「お役に立てたなら良かったです」


「はい!ではまた放課後のお仕事のときに」


 そう言って鯉沼さんは、生徒会室をあとにしました。








 ·····


 ·····


 ·····






 あぁ、可愛いなぁ、鯉沼さん…。まさか相談の内容が、『明日からの休日に、竜ヶ水くんをデートに誘うべきか』なんて…。


 たしかに明日からは、部活動が全面休止に入りますが、それはテスト期間に入るから。再来週の月曜日には1日目が始まるため、本来遊ぶなんてもってのほかでしょう。とはいえ、



(実際にちゃんと取り組み始める生徒は、おそらく少数派でしょうが。)



 この高校では多くの生徒が部活動に所属しており、運動部のほとんどは、平日に週一の休みを設けています(文化系の部活は、だいたい土日休みとなっています)。そのため、土日に遊べるのは、本当にごく稀です。


 なので、私たち生徒会は、本来であればテスト期間中の出歩きを抑制する立場にありますが、よほど成績に問題がなければ、不問としています。抑圧しすぎるのも、良くないですからね。


 加えて竜ヶ水くんと鯉沼さんは、先生方からの評価は高い様子。普段から真面目に授業を受けているそうなので、問題はありません。






 ‥‥‥それはさておき。


 その話をしているときの鯉沼さん、ほんっっっっっっっっっっっっっっっとうに、可愛かったなぁ~…


 いや分かるよ、確かに鯉沼さん真面目だから、テスト期間中にデートとか、遠慮しちゃうの。でも口を開くたびに「竜ヶ水くん、喜んでくれますかね…?」って照れながら言うの反則じゃないですか!?


 それに終始表情がせわしなく変化していて、それがもう全部可愛い。ああもういっそこのまま食べちゃいt






「ーー姉さんよだれ出てるよ」


「!!?」



 突然声が聞こえて振り向くと、そこには生徒会会計で、弟の伶桜れおがいました。びっくりしました、誰かに見られたんじゃないかと。






「なに、?」


「失礼な。さっきしゃべった鯉沼さんのことを思い出してただけです」


「それ同じことじゃないの?」


「自分で考えた漫才を思い浮かべてニヤニヤするのと、以前見た漫才を見て笑うのは同じですか?」


「なるほど理解した」


「よろしい」



 伶桜はよく私の言うことに疑問を持っては質問し、そのたびにこうして理解(共感?)してくれます。学友の方からは、「一つ違いの姉弟で、ここまで仲が良いのは珍しい」とよく言われているくらいには、慕われていると思います。


 まあ、それだけではないのですが。



「それで?鯉沼さんがどうしたの」


「聞いて下さい!先ほどですねーー」



 そうして、私はさっきの様子を伶桜に話します。


 伶桜は、私が素で話せる数少ない人のなかで、一番安心して話せる相手です。それは弟だから、というのもあると思いますが、伶桜は私の話を、いつも優しい目で聞いてくれるんです。



「ーーで、そのときの鯉沼さんがそれはそれは可愛くて、ウフ,ウフフフフフフ…」


「姉さん、俺以外の前ではこんな顔しないでよ?」


「あら、それは独占欲ってやつですか?」


「いや、その顔を見られて生徒会への信頼が失われたら怖い」


「ひどくないですか!?」


 ーーたまにこうして意地悪なことを言ってきますが。



「はぁ、まったく。なんて、さすがに一般生徒にはばれてほしくないよ」


「古いですね伶桜。近年ではそういう発言は、差別として見なされかねないんですよ?」


「同性婚を認めない現政府に一言」


「百合の尊さをなぜ認めないんですか!!!!!!」


「泣きながら叫ぶな朝っぱらから」



 こうは言ってますが、怜桜は私の趣味嗜好を否定することはありません。いつも受け入れてくれています。別に単なる趣味でしかないので、恋愛対象がどうのこうの、というわけではないのですが、まあ、言えませんよね普通。



「いつもありがとう、伶桜。おかげで発散できました」


「今日も一日頑張ろう」


「はい。それではまた放課後の集会まで」


「ん」



 そうして私たちは、それぞれの教室に向かうのでした。





「ところで姉さん、鯉沼さんから他言無用って言われたんじゃないの?」


「あ·····」

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