第3話:ファーストコンタクト
「騙すような真似してごめんね、鯉沼さん」
このあとすぐに小鳥遊くん(首謀者)が入ってきて、わたしに謝ってきた。
「ううん、わたしも竜ヶ水くんのことはその、憧れてたから、そのことはもういいよ」
「ありがとう、そう言ってもらえると助かるよ」
そう言う小鳥遊くんの表情は、ほっとしたような嬉しそうな顔をしていた。自分がお膳立てして、上手くいってなかったら、申し訳ないもんね。成功して気が緩むのも分かるな。
「ところでこれからだけど、どうする?さっそく2人で帰ってみる?」
しばらくして、小鳥遊くんから提案をされる。
現在時刻は16時を少し回ったくらい。だいたいの生徒は下校するか、部活動をしている時間だから、知り合いと鉢合わせすることは滅多にないと思う。
「鯉沼、一緒に帰らないか?」
「竜ヶ水くん…。あれ? そういえば、わたしたちって、家の方向、同じなの?」
……確認してみた結果、竜ヶ水くんたちとわたしは、家が少し離れていた。中学が別々だったから、当然といえば当然だけど。少し、すこしなあ…
「それじゃあ、正門まで一緒に行って、そこから二人で帰るといいよ。……つばさ、ちゃんと送り届けるんだよ?」
「ああ、分かっている」
「ゴメンね二人とも。いつも一緒に帰ってるって聞いてたのに」
「いいよいいよ。つばさとはいつでも一緒に帰れるからね」
小鳥遊くんがいい人で良かった~。
「ああ。たまには結斗も、2人で帰るといい」
「……それ、わかってて言ってるよね?」
「……2人?」
あれ、小鳥遊くん、誰かと帰るの?
「あ~、遅かったね~二人とも~」
「ゴメンね美香さん。でもほら、目的は達成したよ」
「え、えっと…」
「おお~、ついにつーくんにも彼女が~」
二人と一緒に正門まで行くと、そこにはひとりの女の子がいた。
タレ目で柔和な顔立ちをしていて、ふわりと広がるボブヘアが似合っている。身長は平均くらいで、小柄なわたしより高く、体つきも女性的。アレくらいはほしかったなぁ。
「こんにちは〜、鳳美香で〜す。ゆいちゃんの彼女やってま〜す♪」
正門から出て少し歩いたところで、鳳さんから自己紹介された。そういえば、こうしてちゃんと話すのははじめてかもしれない。
「あ、えっと。女子バスケ部1年の鯉沼まといですっ。小鳥遊くんには、いつもお世話になっていますっ」
「ん〜? ……あぁ、あなたがまっちゃんかぁ〜。ゆいちゃんから聞いてるよ〜、いい子だって〜」
「あ、ありがとう…。ん? 『まっちゃん』?」
あれ、しかも今「聞いてる」って…
「ごめん鯉沼さん、美香さんはときどき愛称つけることあるから。僕もゆいちゃんって呼ばれてるし、つばさもつーくんって呼ばれてるから」
「小1からの付き合いだからな。呼び方が昔から変わらない」
「そ、そうなんだ…」
ゆいちゃんはともかく、つーくん…。に、似合わない!
「ところで、なんでわたしのことを知ってるの?」
「ああ、僕が部活でのことを話してあげてたら、流れで『一緒に練習してる女の子がいる』って話になって、」
「話しているうちに、鳳が気に入ったんだな」
「正解せいか〜い♪ …うんうん、なるほど〜」
そう言って鳳さんは、わたしのことをしげしげと見つめ始めた。
「え、え〜っと…」
「…可愛い」
「はい?」
「すごく可愛いね、まっちゃん!」
「うわぁっ!?」
突然抱きついてきた鳳さん。びっくりしたぁ!
「ちっちゃくておめめパッチリしてて、ツインテールでお顔も丸くて、もう可愛い!」
「えっと、あの」
「美香さんは可愛いものが好きで、気に入るとこうして抱きついて頭撫でてくるんだ…」
そう言う小鳥遊くんの顔は、どこか遠いところを見ているみたい。あ、2人が付き合ってるのって、もしかしてそういう…
「んふ〜、しあわせ〜♪」
「・・・鳳、いい加減離れろ」
さっきの口調に戻った鳳さんに(鳳さんは興奮すると、さっきみたいに“普通の”速さでしゃべるらしい)、竜ヶ水くんが声をかける。なんとなくだけど、機嫌悪い?
「え〜、もう少し〜」
「まあまあ美香さん。そろそろ離さないと、鯉沼さんが疲れちゃうよ?」
「そっかー、それなら仕方ない」
そう言って鳳さんは、ようやくわたしを離してくれた。
「ごめんね〜、まっちゃん」
「う、ううんっ、全然いいよ、鳳さん」
「美香ちゃんでいいよ〜」
「わ、わかった、美香ちゃん」
「えへへ〜♪」
わたしが名前で呼ぶと、にへらと嬉しそうに笑う鳳さん、改め美香ちゃん。うん、これは男の子が好きになっちゃうのもわかる。だってホントに可愛いもん。
「ーーということで、2人とはここで別れようと思うんだけど」
「了解りょーか〜い♪ 2人とも、またね〜♪」
「あ、ちょっと美香さん! ……2人とも、また明日!」
小鳥遊くんが美香ちゃんに事情を説明して、そのまま美香ちゃんと小鳥遊くんは帰っていった。ずんずん進む美香ちゃんと小鳥遊くんを見て、なんとなくほっこりした。
「…はぁー」
「竜ヶ水くん?」
「すまない。どうも俺は、鳳が苦手でな。つい」
「そうなの?」
竜ヶ水くんが苦手な派手派手しさとか、他人を蹴落としたりとかはしそうになかったけど。
「その、なんというか、あいつには結斗を笑顔にしてくれた恩は多少あるが…」
聞くところによると、小鳥遊くんは昔から、中性的な童顔と小柄な背丈を気にしていて、よくそのことでバカにされていたみたい。それで、小1のときにはじめて美香ちゃんに出会ったときに、「こんなにかわいいのにおとこのこなんてすてきだね!」と言われたことが、今でも竜ヶ水くんは気にかかるんだって。
「これはあくまで幼い頃の話だ。だから、いつまでも気にしているのはよくないと思うのだが」
そのときの無邪気に小鳥遊くんを傷つけたことを思うと、どうしても苦手なのだとか。
…分からなくもないようなーー
「すまない、いきなりこんな話をしてしまって」
「いいよいいよ。まあ、誰だって、苦手な人はいるものだから」
「・・・」
「・・・」
「……帰るか」
「そ、そうだねっ」
う~ん、やっぱり会話が続かない。好きな人と話すのって、こんなに難しかったんだ…
「あ、そうだ。竜ヶ水くん。」
「???」
「付き合ってること、しばらくみんなには黙っておかない?」
「・・・・・え」
ーー竜ヶ水くんの表情が死んだ。
「え!?なんで!」
「鯉沼、本当は俺と付き合うのが嫌なのか…」
「なんでそうなr…って、ち、違うからね!? 嫌いだから一緒にいるところを見られたくないとか、そういうことじゃないからね!?」
言葉足らずだった。
「……確かに、自分で言うのもアレだが、俺が誰かと付き合うとなったら、少しだけ騒がしくなるか」
「それもそうなんだけど…。その、…」
「???」
「は、はずかしい、というか・・・」
「……鯉沼、やっぱり可愛いな」
「んなっ!?」
ーー結局、しばらくみんなには黙っていてもらえることになったけど、恥ずかしさはぬぐえないのだった…
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