第2話:それは突然の出来事




「はあ~」


「お疲れ様です。朝から大変でしたね」






 現在わたしは、生徒会長に慰めてもらっています。会長が優しい人で助かった~。




 竜ヶ水くんと付き合っていることがバレた翌日、わたしは朝から質問攻めにあいました。なにしろ相手はあの竜ヶ水くん。当然といえば当然だよね。こうなることは分かっていたから、今まで黙っていたわけだし。




 竜ヶ水くんは同じバスケ部の1年で、小鳥遊くんと入部してすぐにベンチ入りをした男子バスケ部の得点源スコアラー。180センチの鍛え抜かれた身体とドリブル力を武器に、敵ゴールへ突き進んでいくパワータイプで、キャプテンでもう一人のスコアラーである天城先輩とはちょうど真逆のプレイスタイル。


 ルックスもよく成績優秀で、入学してすぐにあった実力テストでは16位、続く中間考査では11位だった。わたしは30位に入るかどうかぎりぎりのところ(美香ちゃんや小鳥遊くんも、だいたい同じくらい)なので、純粋に憧れる。


 そんな竜ヶ水くんは、当然のようにモテる。聞いたところによれば、3日に1回のペースで告白されていたらしい。いくらなんでも多い。わたしなんて気後れを感じてしまうくらいなのに、みんなチャレンジャーだったなあ。


 わたしも竜ヶ水くんのことは好きだったけど、あまり話したこともなかったし、イケメンすぎて、声をかけるのも憚られた。


 それが変わったのは、数日前、竜ヶ水くんが声をかけてきてからだったーー






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






「鯉沼さん、少し良いだろうか」



 月曜日の放課後、荷物を鞄に詰めていると、突然上から声が聞こえた。何とはなしに上を見上げると、そこには竜ヶ水くんと小鳥遊くんがいた。二人は1年バスケ部のなかでも上手く、3年生がいたときからベンチに入っていた。加えてかたや長身のイケメン、かたや小柄な童顔男の娘かつ鳳さんの彼氏、ということもあり、学校でも有名人だった。



 同じバスケ部の1年同士とはいえ、それ以外ではこれといったつながりもない(クラスだって違う)のに、いったいどうしたのかな。




「キャプテンが呼んでいる。ミーティング室に来てほしいそうだ」


「え、キャプテン? 天城先輩? それとも神宮先輩?」


「りょ、両方だ」


「出来るだけ少人数で話したいことだから、なるべく人に会わないように来てほしいんだって」




 二人の言葉に、思わず考えてしまう。天城先輩、神宮先輩は、それぞれ男子バスケ部・女子バスケ部のキャプテンになった人で、その二人が部活のない日に(バスケ部は男女ともに毎週月曜日はお休み)、少人数で話したいと言っている。何かあったんじゃないか心配になるんだけど。



「わ、わかった。すぐいくよっ」


 そう言ってわたしは荷物の準備を早めに済ませ(「すぐ帰れるように鞄は持ってくるように」とのこと)、二人とミーティング室にむかった。





「じゃあ、僕は二人を呼んでくるよ」


 ミーティング室に着くと、そこには誰もいなくて、小鳥遊くんがそう言って部室を出て行った。



「‥‥」


「‥‥」


(き、気まずい!!)




 同じバスケ部の1年とはよく話すし、男子ともよく話す。それこそ小鳥遊くんとは、同じポジションということもあって、よく話している(だいたいわたしが教えてもらっている)。


 でも、竜ヶ水くんとは本当に、片手で数えるくらいしか話したことがない。普段口数が多くないのに加え、女の子が囲んでいるときに嫌そうな顔をしていたから、女の子が好きじゃないのでは? と思って、声がかけにくかった。ーーそのクールな感じがかっこいいんだけど。


 でも、ここでなにも話さないのは失礼だし、どうしたら…




「その、、、鯉沼さん」


「はひっ!!」



 そんなことを考えていたら、竜ヶ水くんのほうから話しかけられた。えっ、わたし、何か気に障るようなことした!?




「だ、大丈夫か?」


「う、ううん! だいじょうーぶだよ! どうかした、かな?」


「あ、ああ、その…俺はまず、鯉沼さんに謝らなくてはいけない」


「え?」


 わたしに謝る?何かされたっけ?



「実は、キャプテンが呼んでいる、というのは、嘘だ。俺が呼び出したくて、そう言ってしまっただけだ」


「え、わたしを?」


「ああ。嘘をついてまで呼び出したこと、すまないと思っている。だが、できれば誰にも見られたくなかったのでな」


 そう言って竜ヶ水くんは一息ついて、そして言った。






「俺は、君のことが好きになった。もし良かったら、俺と付き合ってほしい」












「‥‥‥えぇ~!!!!!!」


 え、ウソ、わたし、でも、いや、えぇ~!!!!!!


 お、落ち着いてわたしっ!!   ……まずは確認しないと。






「え、え~と。」


「もちろん、いきなりが駄目なら友人からでも構わないし、嫌ならそれでいい」


「い、嫌じゃないけど、あの…」




 どうしよう、なんでかよくわからないけど、竜ヶ水くん、本気だ。思い当たる節なんてまったくない。そもそもあまり会話をしたことすらないのに。




「あの、いろいろ聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」


「ああ」


「‥‥‥わたしのどこが気に入ったの?それもいつから?」


「·····確かに。まずはそこからか」




 そう言って竜ヶ水くんは、ここに至るまでの経緯を教えてくれた。


 いわく、



『・竜ヶ水くんはあまり会話が得意じゃなく、騒がしいことは苦手である。


 ・にもかかわらず、竜ヶ水くんに言い寄ってくる女の子は、派手だったり、騒がしかったりする人ばかりである。


 ・加えて、他人を貶して自分を売り込んでくる人もいて、危うく人間不信になりかけた。


 ・それを危惧した小鳥遊くんがわたしのことを勧めてきて、様子を窺うかがっているうちに、わたしに好意を寄せるようになった。』



 ということだった。え、待って。今度は違う疑問が浮かんだんだけど。



「なんで小鳥遊くんは、わたしのことを勧めたの?」


「鯉沼さんと話してて、鯉沼さんなら、と思ったらしい。それと、インターハイ予選の会場で、迷子の子どもの相手をしていたことも、好感度が高い理由のひとつだ」


「え!あれ見てたの!?」


「ああ、しきりに泣いている少女をあやすために、身を粉にして励ましていたのは、見ていて心が温かくなった。なかでもあのときやってたポッ○ー○ポパポの物真似は、完成度が高く、結斗と感心していたものだ」


「!!!!!!そ、それは忘れて~!!!!!!」



 あのときは泣いてる女の子を放っておけなくて、どうにか泣き止んでほしくていろいろやってたから、あとで女バスのみんなから「モノマネ完ペキじゃん!www」と言われたときは恥ずかしかった。まさか、それを男バスにも見られていたなんて。不覚っ!!!!!!



「その、すまない。たまたま二人で別行動していたときに見てしまったのだ。だから他の男子バスケ部は見ていないと思う」


「良かった~!それが分かって安心したよ~」


「それは良かった。‥‥それで、その。返事はもらえないだろうか?」


「え? ……ああー!!!!!! ゴメンね!? ちょっと衝撃が強すぎて!」


 せっかく竜ヶ水くんが決心して話しかけてくれたのに、なんてことを!?



「嫌ならそう言ってくれて構わない…」


「い、嫌じゃない嫌じゃない!わたしも竜ヶ水くんのこと好きだったから、むしろ嬉しい…、って何言ってるのわたし!?」


「!?…で、では」


「あ、いや、ちょっと待って! あの、その、えっと」


「す、すまない。取り乱してしまった…。ではなぜ…?」



 竜ヶ水くんが困惑している。そりゃそうだよね。自分のことが好きなら、OKすればいいもんね。だけど…



「確かにわたしは、竜ヶ水くんのことが好きだよ? でも、それはあくまで、外見とか雰囲気とかをかっこいいと思ったからで、竜ヶ水くんみたいに、内面を見ての好意じゃないと思う」



 もちろん、竜ヶ水くんの性格も、好ましく思っている。片付けは率先してやってるし、部員同士でアドバイスをするときも丁寧に・何回も教えていた。その普段のクールな感じとのギャップも好きだった。でも、



「わたしは竜ヶ水くんの『外見』に惹かれて、好きになったの。だからわたしも、竜ヶ水くんが苦手にしている人たちと、何も変わらないと思う。だから…、だから…」






























































































「·····それが聞けて安心した」




「·····え?」




 わたしの独白に、竜ヶ水くんは良かったという。いったいなぜ…



「すぐに答えをもらえるのも確かに嬉しいかもしれないが、今鯉沼さんは、俺の告白を真剣に受け取って、考えてくれた。それがとても嬉しい。それに」


 そう言って竜ヶ水くんはひとつ区切って、






「俺だって、鯉沼さんの容姿が好きなんだが?」


「/////!?」




 それはもう、今まで見たことのないような甘い笑みで、甘いセリフを言ってきた。どうしよう、ドキドキが止まらない。こんな顔をするなんて。



「ち、ちなみに、どの辺を…?」


「そうだな…。その綺麗な黒髪が2つ結びにされて、動くたびに揺れているのは、見ていて和むものがある。大きな両目からは、知性と優しさ、そして進歩への意欲を感じる。それから」


「ストップストップ、スト〜ップ!!!!!! 待って、これ以上は恥ずかしいからやめて!?」


「…残念ながら、俺の持つ語彙力では、ここが限界だ」


「もう致死量に達してかけてるから!!!!!!」



 わたしは自分の顔が熱くなっているのを感じる。もう恥ずかしすぎて、心臓が壊れそう!!!!!!



「…話がだいぶそれてしまったが、俺が鯉沼さんのことを好きでいることは、信じてほしい」


 そうして竜ヶ水くんは、わたしの前に膝をつき、こちらを見上げる(といっても、身長差が結構あるから、大して見上げられてる感じはしないけど)。




「好きだ、


「はうっ!?」



突然の呼び捨てに、思わず仰け反ってしまう。名字を呼んだだけなのに、嬉しくて体が震える。


·····もう。ここまでされて応えなきゃ、竜ヶ水くんに失礼だよね。



「こ、こんなわたしで良ければ、よろしくお願いします…」


がいい。下卑しないでくれ」


「はうわっ!?///」




し、刺激が強すぎるーー

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