3
ドルト・ルアの東の斜面に、
丘の斜面が
バーナーム軍の騎兵部隊が
数はおよそ三〇〇〇。だが、その後方には別の三〇〇〇が
「
レイタスは塹壕ぞいに馬を走らせ、そこにこもって敵をまちかまえているグランゼス兵らを
彼ら兵士の顔はみな一様に、今にも逃げだしたい恐怖を必死におさえこんで青ざめていた。
無理もなかった。鉄の
槍をすて、
にもかかわらず、ひとりとして逃げだす者が現れない。
フィオラへの忠誠が彼らをそうさせているようにレイタスには思えた。
それは、兵が将に捧げる忠誠というよりも、男が女にいだく純粋な
塹壕ぞいを一気にかけ抜けたレイタスは、そのまま止まることなく、今度は塹壕の後方で待機している兵士らにむかって馬を走らせた。
「
塹壕と塹壕の
彼らの役目は、塹壕を突破してきた敵の
その密集方陣を構成している兵士のほとんどが、馬をおりた騎士たちであった。身軽さを確保するために兜と
この指示を、騎士の
塹壕と密集方陣で構成された長い封鎖線を自分の目で確認しおえたレイタスは、最後に本陣へと舞いもどると、馬をおりず
「では、
それだけを言って
「レイタス」
名を呼ばれて肩ごしにふりかえると、
「わたしは勝つぞ。ここでの勝利を、ここで散った者たちへの
まるで自分に言いきかせているかのようにフィオラの声は力強い。
「わたしは勝つ。相手が誰であろうとも」
それだけにフィオラの心の
だが、
そんなフィオラがレイタスには
「勝ちましょう、閣下」
頭のなかの
「俺がお
メルセリオにさえも──。
その名を口にしなくても、フィオラにはレイタスの決意がしっかりと伝わったようである。彼女は満足したように深くうなずき、ふたたびまっすぐ見あげてきた。
「
「閣下にも、戦神アズエルのご加護がありますように」
丘のふもとに構築したグランゼス軍の封鎖線を、丘の上から駆けおりてきたバーナーム軍の第一陣が突き
そこでは、レイタスにとって大切な女性がもうひとり、彼の帰りをまって
レイタスは気あいを発して
騎兵による突撃で
その結果も、両者の立場を逆にして再現された。
塹壕から突きだされる槍の
そんな乱戦のなか、
ギルウェイ将軍もそのひとりである。
彼は、味方が塹壕をこえてくるための
その槍も穂先の刃が欠けだし、そろそろ新しい武器にとりかえなければとギルウェイが手ごろな武器を求めて周囲を見まわした、その時だった。
こちらにむかって
その敵は、白いローブをまとって馬上にあった。左右の手にはそれぞれ剣がにぎられている。子供のように
(まるでアドラフのようなやつッ)
ギルウェイ自身がそう感じたように、両腕に
ギルウェイはそれだけで相手を憎むことができた。槍をかまえなおして、ローブ姿のグランゼス騎士を正面から堂々とむかえ撃つ。
両者は馬をあおって近づき、すれちがいざまにそれぞれの
ギルウェイがすれちがいざまに放った一撃は、だが、やすやすと相手の剣にはばまれた。すかさず
しばらく前後左右にもつれあいながら
「なかなかの
ギルウェイが相手を小僧と呼ばわったのは、
その
怒りをあらわにした相手の
左右二本の剣から交互にくりだされる相手の突きや
それでも撃ちあいながら「名をきいておこうか」と
「ブ男に名乗る名前なんてない!」
外見に
ブ男と
「そいつは残念!」
言うが早いかギルウェイは槍の、穂先とは逆の
この突きを、左右の剣を交差させて体のわきへと受け流した相手の
ところが、相手は可能な限り
ギルウェイの
「ちッ」
フードを払い落された衝撃のため、相手は頭上で
「女か!」
「だったらなにさ!」
相手が叫んだと同時にギルウェイの左
無意識のうちに体をひねって
と、その時、両者の一騎打ちに割って入ってくる者があった。
白いローブを身にまとい、両手に鉄の
「ぬう、こいつはッ・・・・・・」
二、三
加えて、女だとわかった先ほどからの騎士が左右の剣を
無言のうちに成立した、ふたりのグランゼス騎士の息のあった
さしものギルウェイも自分が圧倒的に不利であることを認めざるを得なかった。新手の男のほうが女騎士よりも腕が立つとなれば、なおさらである。
そうと認めたギルウェイに迷いはなかった。
槍の大ぶりでふたりのグランゼス騎士を同時に
それを
「追うな、バカ!」
「バカってなにさ! せっかくいいところまで追いつめてたのに!」
「俺はおまえを、ただの戦士に育てた覚えはないぞ」
「でも──」
「軍師が一騎打ちにかまけて指揮を
この
「ごめん・・・・・・あいつに味方が次々とやられていくのを見てたら、ついカッとなって・・・・・・」
フィオラのもとからレイタスがもどってくると、部隊の指揮をまかせていたはずのセルネアが
とはいえ、仲間を思うその気もちは大切にしてほしく、
「まあ、いい・・・・・・とにかく、これからは戦場全体に意をそそげ。いいな?」
セルネアはコクリとうなずき、周囲を見まわした。
「今、どんな感じなの?」
「みな、よくやってくれている。おかげでこちらの
「どゆこと?」
「バーナーム軍騎兵の突撃が中央に集中しはじめている」
それは、フィオラからの報告と、みずから
もっともレイタスは、敵の中央への
さりとて、中央の危機を
「そこで、こちらの左翼からいくらか兵を
うなずくセルネアをしたがえて、レイタスは激戦が予想される封鎖線の中央へ馬首をふりむけた。
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