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フィオラに
「敵は明らかに丘の
「くそッ、
「もはや、丘は敵の手に落ちたも同然だな・・・・・・」
フィオラが不在の
そんななか、レイタスは
「敵に
だがレイタスのこの発言に、周囲の騎士たちは
レイタスは気にしないように
「まず、丘のふもとに
これに対し、騎士らが
「上策だと? ふん! 我らをこのような
「
彼らの間でレイタスに対する信用はすっかり地に落ちているようだった。
当然である。敵の
彼らとの間に長年の信頼関係が築けていれば、あるいは
それでも、レイタスの
「きいてくれ。兵数でも、地の利でも
「不可能か? ふん! 我が軍が負けると考えるような者に用はない。とっとと
騎士のひとりが剣を抜かんばかりの
だがレイタスは、周囲からあびせられる
「頼む! 頼むから俺の話をきいてくれ! 騎兵にたよった作戦では、もはや敵の優勢を突き
「レイタスどの」
レイタスや他の騎士らの声を
「レイタスどの・・・・・・残念ながら、
言葉づかいこそ
もはや、言葉で説得できる事態ではないように思われた。
そう
「・・・・・・わかった」
師を
ところが、出口にかかっていた
フィオラの顔には戦士の仮面がみごとにまとわれており、涙のあとも完全に消えていた。そして
「席にもどれ、レイタス」
「ですが──」
「命令だ」
「心配をかけたが、わたしの
ルーニや騎士たちには、フィオラの不在は怪我の治療のためと伝達されていた。そのため
フィオラは最後までその案に耳を
「レイタス、どう思う。おまえの意見をききたい」
すると、騎士のひとりが意地の悪い笑みを浮かべながら
「フィオラさま、どうかあの者の意見などに耳をおかしになりませんように。あの者の口からは、またぞろ我らを窮地に追いやる策しか飛びだしませんぞ」
この皮肉まじりの冗談に周囲がドッと
「その進言には耳が痛いな。レイタスの策を
途端に笑声がぴたりとやみ、気まずい沈黙が天幕に満ちた。
レイタスを
フィオラがふたたび一同を見わたした。
「この際、みなに言っておく。策の失敗を
これはレイタスひとりを
この一連のやりとりを見て、レイタスは自分の「人を見る目」の正しさに満足していた。
そしてレイタスが最もうれしいのは、フィオラ自身が戦いへの
「レイタス」
フィオラからふたたび発言を
「はッ。では、お許しを得て申しあげます。敵に地の利を奪われた今、力おしでの
「持久戦はならぬ」
フィオラの
「我らはシアーデルンを
「ご安心を。あくまでも、持久戦の『かまえ』をとるだけでございますから。この『かまえ』をとるだけで、敵はいやでも我らに決戦を
「・・・・・・・・・」
フィオラは黙ったまま
「
レイタスはそう前置きしてから、具体的な説明に入った。
「あの丘は、一種の
ドルト・ルアの丘を
「
馬用の
「まず、この丘のふもとに塹壕を張りめぐらし、封鎖線を築きます。この封鎖線で敵を丘の上に封じこめ、それから──」
ようやく軍議が
一方、
初日の大勝利が、そして現在の圧倒的な
総大将たるバーナーム
兵数も、無傷とはいかなかったものの約二万五〇〇〇を
敵の二倍の兵力で、敵よりも有利な地に布陣している。これでどうして負けるというのか。
そんな明るい
「と、とにかく、こちらにおこしになってごらんください!」
報告にもなっていない報告にイライラさせられながらも、軍師アドラフはバーナーム伯にしたがって丘のふもとが
この地に特有の
自分たちが登ってきたゆるやかな
掘られた塹壕のなかには、
バーナーム軍が
「ふん。あの
たった一夜で丘のふもとに
バーナーム伯ベルランは
旧王家の流れをくむ大貴族のわりには
今も、ほどよく引きしまった
そんな
ドルト・ルアの丘は、東の斜面だけがゆるやかな傾斜をもっており、あとの三方は野生動物ですら立ちいらない
つまり東のふもとを封じられると、それは丘の出入りを封じられたのと同様であり、アドラフとしては
「この丘を、
死地とは、軍隊がとどまり戦ってはならない地形を
アドラフの不吉な発言を、バーナーム伯が表情をしかめながらきき
「この丘に陣どっておれば敵を一望のもとに見おろせ、矢を
勝利とは
アドラフもその見解に
だがその時は、丘のふもとにあのような塹壕は掘られていなかった。
「よいか、アドラフ。
師メルセリオから受けた講義の内容を、アドラフは思いだしていた。自軍にとっての有利は、
(師が言わんとしておられたのは、このことだったのか・・・・・・)
おそすぎる理解が反省となってアドラフの拳を強くにぎらせた。同時に、師の教えを正しく理解して
眼下に見える深い塹壕や、
ニアヘイムを防衛していた謎の指揮官の正体が、レイタスという名の〈アズエルの使徒〉であり、彼が今、フィオラ・グランゼスの軍師となっていることをアドラフはメルセリオからきかされていた。
そのレイタスが、メルセリオのかつての弟子であったことを知った時などは、奇妙な不快感を覚えたものである。
(わたしとレイタスのどちらを、師は高く評価しておられるのだろうか・・・・・・)
そんな疑念にとらわれ、その疑念が競争意識を
そして、自分こそがメルセリオの愛弟子であり、後継者であると
「どうした、アドラフ」
急に黙りこくって歯を食いしばっているアドラフに、
アドラフはこの場にいない人物への憎悪をいったんおさめ、現状を正しく理解できていない
「敵は、この丘に我らを封じこめる腹なのですよ」
今回の戦いの
攻め手のバーナーム軍は、障害として立ちはだかったグランゼス軍を
これに対し守り手のグランゼス軍は、バーナーム軍の撃退が最終目標ではあるものの、それには補給の面で時間をかけられるゆとりがあった。近くにはニアヘイムがあり、その街を救うために
「だが──」
と、バーナーム伯が
「シアーデルンを
意外にも
「ごもっともです。が、残念ながら、シアーデルンを誰かがおそい、それを知った彼女が
本拠地を遠く背に残してきたバーナーム軍の食糧事情はすでに
「ぬうう・・・・・・」
バーナーム伯がヒゲの奥からうめくような声をもらした。ようやく自分たちの置かれている
「ならば、力づくであの塹壕を突破するまでだ!」
バーナーム伯は
(ならば死を覚悟し、全軍で丘の斜面を駆けおりて
アドラフもそう腹をくくるしかなかった。死地と
(いいだろう。同じ師に教えを
あるのは、メルセリオでさえも油断できぬと高く評価している男への、
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