第28話

 (※バレリー視点)


 なんなのよ……、これ……。


 ジョエルが、逮捕された。

 彼は、詐欺師だったのだ。


 憲兵がジョエルを疑い、彼の周辺を詳しく捜査した結果、たくさんの証拠が出てきたそうだ。

 そのうちの一つとして、ジョエルが経営している病院に現在通っている患者を、別の病院で検査してもらったところ、難病の症状はなく、薬の過剰摂取だと診断されたそうだ。

 

 ようするに、彼はマッチポンプで金儲けをしていたのだ。

 彼に協力していた院長も、当然逮捕された。

 逮捕された院長は、「過ちだと分かっていたが、神はお許しになると思っていた」などと供述してるそうだ。

 

 そして彼の逮捕は、私たちルクレール家にも、多大な影響を与えた。

 そもそも、ジョエルと私の婚約は、両家の関係を保つためのものだった。

 具体的にいえば、ジョエルの家からの資金援助があったからだ。

 しかし、ジョエルが逮捕され、婚約が破棄されたことによって、ルクレール家への資金援助は断たれた。


 それはつまり、私たちルクレール家の全員が、路頭に迷うことを意味していた。


 私たち家族は皆、絶望していた。

 平民へと成り下がり、それどころか、満足な生活もできないまでになっていた。

 こんな貧乏な生活が、この先ずっと続くのだ。

 絶望以外のなにものでもない。


 それに、ルクレール家の全員が路頭に迷ったといったが、正確にいえば少し違う。

 新たに婚約して、既にこの家を出ていたお姉さまだけが、今でも幸せな生活を送っている。

 私たちは恥を忍んで、お姉さまに援助を頼み込んだが、あっけなく断られてしまった。


 お姉さまからジョエルを奪った時は、まさかこんなことになるなんて、思ってもみなかった。

 こんなことになるくらいなら、お姉さまから婚約者を奪わなければよかったわ……。


 しかし、後悔したところで、時間が巻き戻るわけでもなく、お姉さまは幸せな生活を謳歌し、私たちは惨めな生活を送ることに、変わりはなかった……。

 

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両親から溺愛されている妹に婚約者を奪われましたが、その婚約者には、黒い秘密があったようです 下柳 @szmr

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