第8話

 (※ゲイブ視点)


 どうして、こんなことに……。


 ここ最近は、そこそこ勝てていたのに、今日はまるでだめだ。

 最近勝っていた分以上に負けてしまっている……。

 あぁ、なんて日なんだ……。

 今日はどうやら、とことん負ける日らしい。


 ……いや、待て。

 きたぞ。

 フルハウスが確定した。

 落ち着け……。

 私は興奮を表に出さないように、深呼吸して息を吐いた。


 さて、相手の様子はどうだ?

 おいおい、なんてわかりやすい奴なんだ。

 手が悪くても、せめてそれを顔に出さないようにしないと、こちらにまるわかりだぞ。

 それだと、手が悪いですと言っているようなものだ。

 この辺で、負けている分を取り戻すとするか……。


「オールイン」


 さて、相手は乗ってくるか?

 まあ、おそらく乗ってこないだろう。

 乗ってくるとしたら、よほどの馬鹿だ。


 え、おいおい、乗ってくるのか。

 馬鹿な奴め。


「フルハウスだ」


 私は笑っていた。

 これで、予想以上に回収することができた。

 そう思っていたのだが……。


「フォーカード」


 はぁ?

 ふぉおかあど?

 はあ?

 なんで?


 こいつ、まさか、演技だったのか?

 明らかに意気消沈していたのに、まさか、あれが演技だったとは……。

 そんな……、ありえない!

 どう見ても、手が悪そうだったじゃないか!

 なんなら、うっすらと涙まで浮かんでいたぞ!

 

 あれがすべて、演技だったのか?

 ちくしょう、まさか、これほどの奴がこんなところにいるなんて……。

 こんなところで、ポーカーをやっている場合じゃないだろう。

 それだけの演技力を備えているなら、舞台俳優にでもなれよ……。


 とにかく、私の負けだ……。

 まさか、こんなことになるなんて……。

 最近、ちょくちょく買っていたから、少し気が大きくなって、調子に乗ってしまっていた。


 しかし、ここで負けっぱなしというわけにはいかない。

 それは、私のプライドが許さない。

 私はポケットからある物を取り出した。

 病院の薬品棚から持ち出してきたものだ。


 これを闇市場で売れば、かなりの価値がある。

 これを担保に、私はもう一度勝負を挑むことにした。


 俳優気取りの若造が……。

 こっちはお前の倍の人生を生きているんだ。

 年季の違いというものを、見せてやろう……。


     *


 (※ジョエル視点)


 私は元の日常を取り戻したことに安堵して、喜びをかみしめていた。

 

 やれやれ、一時はどうなるかと思ったが、ゲイブも心を入れ替えて真面目に仕事をしているみたいだし、本当によかった。

 病院の秘密をばらすと脅された時はさすがに焦ったが、今後はその心配もない。


 彼はギャンブルから完全に手を引いたから、これでトラブルが起きる心配もないだろう……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る