第3話

 (※ジョエル視点)


 私の人生は、すべてがうまくいっている。


 没落寸前だったルクレール家に資金援助することで、周りからの評価は上がった。

 それに、バレリーとの婚約もした。

 彼女は私にとって、一番大切な人だ。

 姉なんかとは、比べ物にならないほどだ。

 バレリーの両親は彼女のことを溺愛しているし、ルクレール家には資金援助をしているから、私たちの婚約もスムーズに進んだ。

 

 私はバレリーと幸せな時間を過ごしていた。

 いつまでも、こんな時間が続くと思っていた。

 しかし、そんな幸せを邪魔する者が現れた。


 私が経営している病院の院長であるゲイブ・ハーストだ。


 ある時、私は彼に呼び出され、病院へと向かった。

 そして部屋で二人きりになり、彼が話を持ち掛けてきた。


「ジョエルさん、実は折り入って、あなたにお願いがあるのです」


「何だ? 言ってみろ」


 改まってお願いとは、いったい何だろう。


「実は、お金を少し、貸していただきたいのです」


「何? 君には高い給料を支払っているだろう。充分に贅沢な暮らしができるくらいだぞ」


「ええ……、それがですね、その……」


「何だ、言ってみろ」


 口ごもるなんて、そんなに言いにくいことなのか?

 いったい、何だろう?


「実はその……、借金がいくらかありまして……」


「何だと? どうしてだ!? 毎月あれだけの金を払っているのに、どうして借金なんかあるんだ!?」


「それが、その……、最近ギャンブルに嵌っていましてね。病院の仕事はストレスとの戦いですから、ほんの息抜きのつもりだったんです。最初のうちはね……。しかし、段々とのめり込んでしまい、大きな賭けになればなるほど、興奮するようになったんです。興奮して気分が高まっている間は、仕事のことも忘れることができる。だから私は毎回大きな勝負をするようになりました。しかし、ここ最近は負け込んでいて、借金がいくらかできてしまったのです」


「まったく……、愚かなことだ」


 私はため息をついていた。

 自分ではどうしようもない不運に巻き込まれて、まとまった金が必要になったというのなら、まだわかる。

 しかし、ギャンブルで負けたなんて、自業自得だ。

 私が彼に金を貸す義理はない。


「金のことは、断る。自分で何とかしろ。完全に自業自得だ。君は高給なんだから、少しずつ返済していけばいいだろう」


「しかし、その間私は、ギャンブルができなくなります」


「馬鹿か、君は! そのギャンブル自体を、やめろと言っているのだ! そんなことをしているから、借金を作ってしまったんだろう!」


「……お金は、貸していただけないのですね?」


「ああ、何度も言わせるな。自業自得なんだから、自分で何とかしろ」


「わかりました……」


 彼は項垂れていた。


「用は済んだな。私は失礼するぞ」


 私は部屋をあとにしようとした。

 しかし……。


「お金を貸していただけないのなら、こちらにも考えがあります」


 ジョエルのその言葉を聞いて、私は振り返った。


「もしお金を貸していただけないのなら、この病院のを、世間に公表しますよ」


「貴様……、私を脅そうというのか?」


 私の声は、僅かに震えていた。

 せっかく、人生がうまくいって幸せだったのに、まさか、彼が障害になるとは思わなかった。


 気付いたら、私の額からは、いつの間にか汗が流れていた……。

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