第2話

 私は新たな婚約者の住む屋敷に到着した。

 今日から私もここで暮らすことになった。

 私の新たな婚約者は、子爵令息のクリス・ダウンズである。

 彼とは、パーティ会場で何度もあったことがある。

 

 何度も話をして、彼とは気が合うと思った。

 自由な恋愛さえできれば、結婚したいと思ったほどだ。

 そんな彼から、縁談の話が舞い込んできたのだ。

 彼は、私の家の事情を知っている。

 だから私が、家族からどういう扱いを受けているのかわかっているのだ。


 私は屋敷の中に案内された。

 そして、クリスの部屋へと通された。


「やあ、久しぶりだね、フィオナ」


「クリス、本当にありがとう。まさか、ここまでしてくれるなんて……」


「いや、いいんだよ。婚約破棄した君があの家から解放されるには、こうするのが一番簡単だった。それだけのことだよ」


 執事の人が入れてくれたお茶を飲みながら、私たちはしばらく話していた。

 そして話題は、私の元婚約者であり、現在はバレリーの婚約者であるジョエルのことになった。


「彼の噂は、時々耳にするよ。なんでも、彼が経営している病院の院長は、治療が困難な病気を何度も治しているらしい」


「そうみたいね。難病にかかれば十人に一人しか助からないと言われているのに、彼はほとんどの患者を治しているそうよ。だから、たくさんの人が病院を訪ねて来て、そのおかげで経営者であるジョエルも大金持ちになった。そして、没落寸前の私たちクレール家と婚約することになったの。まあ、私は婚約破棄されたのだけれど」


「しかし、すごいことだと思うよ。あの難病をほぼ百パーセントの確率で治しているんだから。あまりに凄いから、時々イカサマなんじゃないかって言われているみたいだね」


「私、その噂のこと、一度ジョエルに話したことがあるの。こんな噂があるけれど、馬鹿らしいわねって。彼も笑って軽く受け流すと思っていたけれど、そうはならなかった。その噂の話題を持ち出した途端、彼、すごく怒ってしまったの。根も葉もない噂なんだから、あんなにむきにならなくてもいいのに……。彼、どうしてあんなに怒っていたのかしら……」

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