両親から溺愛されている妹に婚約者を奪われましたが、その婚約者には、黒い秘密があったようです

下柳

第1話

「悪いけど、君との婚約は破棄する。そして私は、君の妹であるバレリーと新たに婚約を結ぶことにした」


「え……」


 子爵令嬢である私フィオナ・ルクレールは、子爵令息である婚約者のジョエル・モーリスに婚約破棄を言い渡された。

 しかし、そもそも私たちは政略結婚のために婚約していたのである。

 割り切った関係だったので、特に問題はなかった。

 昔から私のものを何でも奪う妹が、まさか婚約者まで奪うとは思っていなかったので、多少驚いたという程度のことだった。


「残念だったわね、お姉さま。婚約者を奪われて悔しいでしょうけれど、これが現実よ」


 いえいえ、何を言っているのですか?

 べつに悔しくなんてありませんよ。

 むしろ、政略結婚のために嫌々婚約していたので、お礼を言いたいくらいです。


 私たちルクレール家は、没落寸前だった。

 モーリス家はそんな私たちに、金銭的援助と共に、婚約を申し込んできた。

 父はそれを承諾し、私とジョエルは婚約することになったのだ。

 それがまさか、妹に婚約者を奪われることになるなんて思わなかった。


 そういえばバレリーは、ジョエルのことをかっこいいと、常日頃から言っていた。

 今にして思えば、あの時からすでに、私からジョエルを奪おうと考えていたのだ。

 政略結婚の相手なので、特に悲しいわけではないけれど、それでもジョエルのことはどうかと思う。

 婚約している相手の妹に鞍替えするなんて、なんて軽薄な人なのだろう。


 しかし、結局はルクレール家の娘と婚約することには変わりないので、金銭的援助は無効にならないらしい。

 向こうの両親もこのことは承諾しているそうだ。

 だから私の両親も、妹が私から婚約者を奪っても、何も咎めないのだ。


 妹は昔から、私のものを何でも奪った。

 彼女は両親に溺愛されているので、どんなわがままでも許してもらえた。

 逆に私は、姉なんだから我慢しなさいと、窮屈な思いをしてきた。

 事あるごとに、妹は私のものを奪っていた。

 その度に妹は嬉しそうにはしゃいでいて、彼女を見て両親も笑顔になっていた。

 今まで妹には、本当に困らされてきた。

 しかし、今回ばかりは彼女に感謝している。


 妹が婚約者を奪ったことには驚いたけれど、結果的に見れば、私には都合のいいことしかない。

 無理やり婚約させられていたのに、問題もなく婚約を解消できたし、妹はジョエルに夢中なので、もしいつか私に新たな婚約者ができても、奪われる心配もない。


 そしてその後、偶然にも、私には新たな縁談の話が舞い込んできた。

 妹は既にジョエルと婚約しているので、私から新たに婚約者を奪うことは、さすがにできない。

 しかも、私は相手の屋敷に住むことになり、この家を出ることが決まった。

 私は家族から解放され、新たな人生を歩み出すことになった。


 一方で、私から婚約者を奪った妹はのちに、彼に黒い秘密があることを知るのだった……。

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