第23話
(※リンダ視点)
私の前に現れた人物、それはウォーレンだった。
彼は最後に見た時と同じ、虚ろな目をしていた。
彼から異様な雰囲気を感じて、背筋がぞっとした。
「……あれ以来、おれの心はずっと空っぽのままだ。何をしても、心の底から楽しめない。おれの人生は、あの時終わったようなものだ……」
ウォーレンがぼそぼそと話し始めた。
彼のことが怖くて、私は逃げようと思った。
でも、体が動かなかった。
「それで、あれ以来ずっと考えていたんだ……。おれがこんな気持ちになったのは、いったい誰のせいだろうってね……。それで、ようやく答えが出た」
ウォーレンが、懐からナイフを取り出した。
彼の虚ろな目が、こちらを向いている。
彼は歯をむき出しにして笑っていた。
私は震えて、一歩も動くことができなかった。
「あの人、ナイフを持っているわ!」
「危険だ! 離れろ!」
周りにいた通行人たちは、ウォーレンに気付いて離れて行った。
狂った笑い声をあげている彼と、震えて動けなくなった私だけが、その場に取り残された。
「君が、おれの人生をめちゃくちゃにしたんだ! 君さえいなければ、おれはレイラと幸せになるはずだったんだ! 君が誘惑しなければ、おれは婚約破棄することもなかった! 君が病弱だと嘘をついていなければ、おれは愛する人の裏切りに、心を引き裂かれることもなかった! 全部……、全部、君のせいだ!」
ウォーレンがナイフの切っ先をこちらに向け、勢いよく迫ってきた。
私は、一歩も動くことができなかった。
まさか、こんなことになるなんて。
こんなことになるなら、レイラからウォーレンを奪うんじゃなかったわ……。
病弱だと嘘をつくなんてこと、しなければよかったわ……。
しかし、そんな後悔をしたところでもう遅かった。
この胸の痛みは、数々の後悔に押し潰されているせいだけではなかった……。
*
「あ、ようこそ来てくださいました。さあ、こちらへどうぞ」
近所の人を呼んでのパーティは、まだ続いている。
たった今、隣に住む四人家族が遅れてやってきた。
町で用事があったそうだ。
もちろん、初めからそう聞いていたので、なんの問題もない。
「さっきね、町が大変な騒ぎでしたよ」
「え、そうなんですか? 何かあったのでしょうか?」
「その場にいた人たちから聞いた話なんですけど、男が女を刺したって話ですよ。刺された人は、病院へ運ばれましたが、助かる見込みは少ないそうです。物騒ですよねぇ。あ、刺した男の方は、既に捕まったんですけどね。どう考えても、処刑されるんじゃないかって、みんな話していましたよ」
「へぇ、そうなんですか。物騒なことですねぇ。刺した人が捕まってよかったです」
彼らも私と共にパーティの輪に加わった。
まだお昼なので、という建前でノンアルコールのパーティだったけれど、急遽、特別にアルコールもありのパーティに変更した。
みんなからは、喜びの声が上がった。
「それでは皆さん、乾杯!」
私は、笑顔でグラスを傾けた。
幼馴染を愛しているから、私との婚約を破棄して追放? いえ、この屋敷は私のものなのですけれど 下柳 @szmr
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