第9話

 玄関が開く音で現実に引き戻された。時計の針を確認するといつの間にか七時近くになっていた。いつの間にか体は床の上にいた。

 気絶した? 

 でも手にはしっかりとスマホを握りしめていた。時間をとんでしまったよう。体感は十五分なのになんで三時間くらい経過しているのかが不思議だ。

「ただいま、美優。なに? また寝てたの?」

 そんなところで? と礼資の目が私を非難している。

 寝ていたわけではないし、またといわれる理由はわからない。でも反論したら口論になるからいわない。

「ごめんなさい、でもちゃんとご飯作ったから」

「美優は作りたくてご飯作ってるんだからさ。ご飯と、あと掃除ね、ちゃんとやらないと」

「ごめんなさい」

 うなだれて手をもじもじさせていると、これが正解だったようで、礼資は「まあ、ご飯できてるんなら責めないよ」といった。機嫌を損なわなかったようでよかった。

「先にシャワー浴びたいな、美優もおいで」

 彼に笑顔を向けられ私も笑顔で返す。ようはセックスがしたいとの意味。気分じゃないけれど、断るのも面倒くさい。髪の毛を軽くブラシでといてから服を脱いだ。あ、と思い出し脱いだズボンのポケットから鍵を回収する。洗面台の脇に置いてある髪留めなどを入れる小物入れに一時的にしまうことにした。

 浴室からはシャワーの音がすでに聞こえる。私が入っていくと、礼資は優しい手つきで、立ちつくしたままの私の身体を洗いはじめる。

 大きな手。全体的に線が細いのに手だけは厚みがあってがっしりとしている。この優しい手つきは好きだ。私の背中を流した後、その手は肩を素通りし、私の胸を揉みしだいた。なんども、なんども。身体も密着し、背後から押さえつけられている。

 飢えているかのように左手は執拗に胸を揉み、右手だけがゆっくりと下っていった。

 そして、彼の手は私の足の付け根で止まり、一瞬の躊躇の後、するりと太ももの間に人差し指が滑りこんできた。

 私が思わず声を上げると礼資は笑った。

「しっかりと洗わないとね」

 クリトリスをなで、襞を広げるように指を回した。自分でも湿ってきてしまっているのがわかる。礼資の指。それは自由奔放に私の中で跳ね回る。声が出るのを押えられない。

 私は必死に抗おうとするが、私が身をよじると乳首を引っ張られた。痛みにまた喘いでしまう。必要以上に自分の声が響いて、うるさかった。いつの間にか私は壁に手をついている。彼が私の腰を自分の方へ引き寄せ、そのまま後方から一気に貫いた。

「愛してる」

 耳元でささやかれる。いつも以上に熱を帯びた声に足の力が抜ける。腕の力で耐えようとすると、自分から彼に腰を突き出しているような姿になってしまう。礼資は激しく腰を振った。彼が揺れるたびに私は喘ぎ声をあげた。猛烈に喉が渇いてきた。彼はその後数分腰を振り続け、そのまま膣の中に吐精した。

 礼資は私を一度抱きしめた後、無言でシャワーを浴び、さっさと浴室から去ってしまった。一人残された私は体を丹念に洗い直し、髪を洗った。なんだかみじめだなぁと思った。

「美優」

 ドア越しに声をかけられたため、「もう出るよ」と返し、私はゆっくりと息を吐いた。それならそんなに急がず、一緒にいてくれたらよかったのに。礼資はいつも自分勝手だ。視界から私が見えなくなるとすぐに探しに来る。ハイハイをしながら母親を追いかける乳幼児を想起させる。急いで浴室から出て服を着た。髪は軽く拭いただけだけれど、ゆっくりしていられないからドライヤーは後でやることにした。

 ありがたいことに私が想像したようなオムレツに対してのコメントは特になく、しっかりと完食してくれた。礼資は基本的には米粒一つ残さない。でも嫌いなものは早々に自分の皿からよける。きちんと完食したってことはおいしかったってことなんだろう。

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