第十九話
是非とも今度はしっかりとしたおもてなしをさせてほしいというルーシア様の希望により、今はリージュ公爵家のお庭でお茶会をしている。確かに以前は疑いなどもあったので、今回はお姉様と喜んで参加させてもらうことになった。
「お出かけ……ですか?」
美味しいお菓子と紅茶をいただいていると、ルーシア様から「リアム様とお出かけがしたい」という話題が出てくる。おそらく以前のリリア様との会話がきっかけだと思うのですが、難しい問題だと思います。
「そうですね……その様子からするとリージュ公爵は反対でしたか?」
「はい……。お父様は危険すぎると。お母様はしっかりと護衛のいうことを聞くのであれば反対はしないと言ってくれています」
「じゃあ、トリプルデートをしましょう!」
お姉様が突然知らない単語を話し出す。そんなお姉様はとてもいいものを見つけた子供のように、私を見てきて可愛い……違う。今はそうじゃなくて……
「お姉様、そのとりぷるでぇとというのは「それはいい考えですわ!」……ルーシア様!?」
とりぷるでぇとは貴族としては当然なの!? それは絶対にない。だって、アリーシャ様にも聞いたこともないし、とりぷるは確かお姉様の前世でえいごと呼ばれていた言語のはず……
ですが、それならどうしてルーシア様も同意しているのでしょうか。そんな疑問を抱いているうちにお姉様たちの話し合いが終わってしまった。
そして次の日、私たちは宝石店に来ている。店内にいるお客は私とお姉様、ルーシア様に加え、お姉様の婚約者であるレオス様、リアム様そしてリオン様。それと数人の護衛の方々。今は店内を貸切にして二組ずつ別れて宝石を物色している。
そもそもここに王族がいること自体があり得ないはず……なんですよね。二人もいるんですが……
お姉様が発案したのは昨日。王族がそんなすぐに出かけることなんてできるはずがありません。それなのにどうしてここにいるのでしょうか。
それは私だけが話を聞かされておらず、計画を進めていたということなんでしょうけど……
それでもお姉様とルーシア様のお出かけという認識を甘く見ていたことを実感させられる。市場を見て回りたいのかと思っていましたが、まさか貸切にするとは……。リージュ公爵に最初から貸切にすると言っていれば反対されなかったのではないでしょうか?
「アリシア、何かいいものが見つかったのかい?」
「リオン様……ご気遣いありがとうございます。ですが私は結構です。それよりもリオン様は良かったのですか?」
「……良かった?」
「はい。リオン様もそろそろ婚約者を決めなければいけない頃のはずです。それなのに私と一緒にいては良くないのではないでしょうか?」
「気づいているだろうけど、この計画は前から準備されている。勿論、私も兄上も公務を終わらせた上で今日を楽しみにして来たんだ。兄上はルーシア嬢に、私はアリシアに会うのをね。これなんてどうだい? 君によく似合う」
そう言ってリオン様が差し出して来たのは私の瞳の色に似た空色の宝石。とても綺麗だけど、その色は私の色であるのと同時に父の色でもある。その宝石をじっと見つめていると父に見られているような錯覚を起こしてしまい、思わず首を振る。
「……そうか、じゃあどんな色が好きなんだい?」
以前までは好きな色はと聞かれたら迷わず空色と答えていた。けれど、今は父と同じというだけで好きにはなれそうにない。一番初めに思いついたのは金色だった。その色はリオン様の瞳の色だった。
「金色、もしくは黄色が好きです」
「……そうか」
嬉しそうな顔をして店主に話をしに行くリオン様をどこかボーとしながら見つめ、その奥で楽しそうに宝石を物色している二人組を見て羨ましく思う。
「……いいなぁ」
お姉様もルーシア様も堂々と隣に立っている。それなのに私はリオン様の横に立つことができない。私はずっとリオン様に助けられてばかりで、リオン様に何もできていない、返せていない。そんな自分がとてももどかしい。
私は生まれて初めて他者を……お姉様を羨ましく思った。
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