リオン視点2

 王族というのも楽ではない。公務を終えても終えても無くなるということは決してない。むしろ増えている。


 先日、アリシアたちと出かけるためにいつもよりも多くの数を終わらせたはずである。それなのに、なぜか以前よりも多く書類が積まれているのだ。


「これはどういう事だ?」


「王太子殿下があれを全部終わらせれるので有れば、量を増やしても構わないだろうとおっしゃりまして……リオン様とリアム様の量が少し……」


「お前にはこれが少しに見えるのか?」


「…………」


 目の前の机には書類が軽く以前の2倍はあるように見える。それがわかっているのか、レオスは何も答えない。はぁ……


「今度、ライゼン兄上と会った時に抗議を入れるとしよう」


 そう決意したのと同時に扉がノックされるのが聞こえる。レオスに頷いて、扉を開けてもらうとリアム兄上が入ってくる。


「すまない、少し話したい事が……やっぱりお前もか……」


「みたいですね。リアム兄上も相当だったでしょ」


「ああ、王族で無くなったら仕事を回せないから、回せるうちに回してくるのだろう。もう少し手加減というものを覚えてもらいたいものだね」


 私の机の書類を見た後に苦笑いをしながらライゼン兄上について少し愚痴る。リアム兄上は将来、リージュ家に婿入りする事が決まっているため、時々仕事を多く回されたりしている。まあ、それは私も同じなのだが……


「それで……話したいこととはなんでしょうか? わざわざリアム兄上が私のところに直接来るぐらいです。とても重要な事なのではないですか?」


「違う。違う。彼女のことで気になる事があってね」


「彼女……アリシアのことですか?」


「ああ。彼女の外堀を囲っているようだが、今のままでは彼女の気持ちをお前に向けることは不可能だよ。そのことは薄々勘づいてはいるんだろう?」


 確かに私はアリシアと婚約する為にシェリア嬢に協力してもらっている。それに徐々にだが彼女も私に心を許してもらえていると思っている。それなのにリアム兄上はどうして……


「気づいていなかったか? そうだな……彼女がリオンに好意を持っているのは昨日の宝石から明らかだろう。だが、彼女はきっとそれをお前に伝えることはないだろう」


「なっ、どうして……」


「彼女はシェリア嬢が虐待されている間、一人で行動していたんだろう? 誰にも相談できず、ただ一人で……。そしてそれを救ったのはお前だ。リオン」


 アリシアは前アースベルト家当主であるアリーシャ殿に気に入られていたのは確かだった。才姫と呼ばれる彼女の知識をアリシアは身につけてた。そして、アリシアはアリーシャ殿を本当の母のようにしたっていた。

 しかし、それを面白く思わなかったのがアリシアの本当の母親であるメイドだった。彼女は当主になれないことに不満を持っている男を唆し、アリーシャ殿を毒殺した。


 そのことに責任を持ち、一人で解決しようとする彼女を助けたのは間違いなく私だった。けど、それがどうして……なんの関係が?


「彼女は雛鳥だよ。誰の助けもない状況で一人で殻を破り、立ち上がった。そして、初めてお前が助けた。彼女にとってそれはとても大きな心の支えになっだろう。雛にとっての親鳥のように」


「…………」


「わかったか? 彼女にとってお前は恋愛感情にはなれない。お前はとんでもない恩人なんだよ。お前は彼女の隣に立ちたいと思っているのだろうが、彼女からするとお前の隣はとても遠い道のりと感じているんじゃないか?」


「それは……」


 薄々は感じていた。たぶん彼女が自分を出しているのはシェリア嬢の前だけで、私の前ではいつも態度が堅くなる。今までは時々見せる彼女の素がとても可愛らしく思っていた。だから、それでもよかったのだが……


「どうすれば……」


「ここまで言ったが、お前はお前のままでいいと思うぞ。さっきも言ったが、彼女はお前に好意を持っているようだしな」


「……じゃあどうしてこんな話を……」


「心の持ちようだ。お前は彼女の歩幅に合わせようと思っていただろう? だけど、彼女はお前との距離は離れ過ぎていると感じている。それではいつまで経っても並ぶことはない」


 私はアリシアが好きだ。レオスが婚約者に会いに行くということで、なんとなくついて行った日。初めて彼女と会い、その聡明な彼女に心惹かれ、彼女の笑顔を好きになった。

 今は見ることができなくなったが、私の手でいつかは彼女を笑顔にしたいと思う。


 私は少し怖がっていたのかも知れない。私が近づき過ぎるとアリシアは離れて行ってしまうのではないかと。だが、私は彼女とこれからも一緒に居たいと思う。

 これからはこの気持ちにもっと素直になろう。


「ありがとうございます、リアム兄上。これからはもっと私から近づいていこうと思います」


「グイグイ行き過ぎて嫌われるなよ」


「わかっていますよ」


 二人で笑い合う。リアム兄上とこんな風に話すのはいつ振りだろうか? 


「楽しげにしているところ申し訳ありませんが、お二人とも、そろそろ公務を始めて貰わないと間に合わないのですが……」


 レオスの言葉に私と兄上は同時に机の上に置いてある書類を見て苦笑いをする。


 アリシアに無理をして欲しくはない。だがこの気持ちを抑えるのは難しそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る