第十三話

 しばらくの間、四人で話していると席を外していたルイーザ公爵夫人が入ってくる。


「お茶会の準備ができたので案内をしてもいいかしら?」


 ルイーザ公爵夫人の声かけに、みんなで庭に用意されたお茶会会場に向かう。案内された先には色とりどりの花が咲き誇っていてとても綺麗。


 用意されていた席につき、五人の侍女がそれぞれのカップに紅茶を注いでいる。その仕草はとても綺麗なもので、とても洗練されている。

 紅茶のいい匂いと、庭に咲いている花の甘い香りがいい具合に混ざり合っている。


 宣言通りにリージュ公爵が腰を上げた時、これからも絶対に見ることのない光景が私の目に映る。


 五人の侍女全員が私たちに用意されていた紅茶を飲み干し、カップを戻す。戻す勢いが強かったのか、カチッとカップとソーサーがぶつかる音が鳴るが誰も何も言わない。いえ、呆気に取られすぎて何も言えない。


「立場は理解しています。ですが、私たちは彼女、アイリスのために毒草なんて用意する義理はありません」


「そうです! 彼女は私たちの忠告も聞かずに、出ていきました。今更帰って来たとしても、私たちが彼女の犯罪に関わる必要はありません!」


「ご、ごめんなさい」


 二人の侍女言葉に残りの侍女たちがすごい勢いで頷いている。その光景に思わず謝ってしまう。


「謝罪をするのは私たちです。同僚が大変申し訳ありませんでした。ですが、私たちは彼女が頼って来たとしても断っていたはずです。それだけは言わせていただきたいのです」


 失礼しました。そう言って彼女たちはカップとソーサーを引き下げていった。たぶん、新しいものに取り替えに行ったのでしょうけど……


 これって、新しいものを用意したらさっきのは意味ないんじゃ……


「ふふっ、ごめんなさいね」


 ルイーザ公爵夫人が笑いながら謝罪する。


「ルイーザ公爵夫人がお茶会の意味に気づいて、彼女たちにあんな事をさせたんですか?」


 私の問いかけに、ルイーザ公爵夫人は私に顔を向けてスッと目を細める。


「貴方と話しているとアリーシャ様を思い出すわ。けれど、まだまだ爪が甘いわ。お茶会ということで、謝罪されるために来のではなく友好的だと示せる。けれど、アリーシャ様の死因が毒なのであれば、その用意したのが一番怪しいのはこの家。そして、容疑者は私たち。自分達を囮にして、炙り出そうとしたのでしょうけど、それなら手紙で夫だけに伝えるべきだったわね」


「そもそもルイーザ公爵夫人は疑っていませんから。ですが、私の爪が甘いと思ってこの余興を?」


 ルイーザ公爵夫人ならば、あんな風に豪快に何かをさせるのではなく、もっと優雅にさせるイメージがある。


「あれは彼女たちの意思よ。貴方たちが私たちが毒草を入手したのを手伝ったかもしれないと疑っている可能性がある事を話したら、「毒がない事を証明します!」って言っていたから任せてみたの。それで、どうして私を疑っていなかったのかしら?」


「ルイーザ公爵夫人がアリーシャ様を殺害する意味がないからですよ」


「そう? 彼女の才能に嫉妬していたかもしれないわよ」


「それならばルーシア様と初めて会った時の言葉がおかしくなりますから。ルーシア様は初めからアリーシャ様の事を才姫と言っていましたから。嫉妬しているのであれば、娘には悪く伝えますよね」


 少なくとも、自分が霞むような才姫とは絶対に教えないはずです。


「ふふっ、本当にシアはいい友達ができたのね」


 その言葉に体がビクッとする。母がよく呼んでいた私の愛称。今呼ばれているのはもちろん私じゃなくて、ルーシア様。

 私はもう、あんな風に優しく自分の名前を呼んではもらえない。吹っ切れたはずなのに、まだ少し羨ましく感じる。


「? どうかしたの」


「い、いえ、なんでもありません」


 こちらの様子に気がついたルイーザ公爵夫人に問いかけられる。いけない、今はこんな事を考えている場合じゃありません。


 リージュ公爵が関与していないのであれば、父は本当にどこから毒草を入手したのでしょうか。


 この後は他愛もない話をするだけで、今日のお茶会は終わりました。

 ちなみに、もう疑ってはいなかったのですが、リージュ公爵が全員分毒味をさせられていたのは秘密です。

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