第十二話

「父が用意した毒草について、私は第三者の関与を疑っています」


「私が毒草を用意したと?」


「別に公爵様ご本人が用意したとは思っていませんよ? 使用人も使えるでしょうし、父に心酔するような人がいるかはわかりませんが、いるかもしれません。もしくは母のご友人かも……。ただ、この家には協力するかもしれない人が多くいますから」


「……だからお茶会か」


 さすが、公爵様と言うべきでしょう。そう、お姉様にお茶会と言ってもらった理由は、この場で公爵様が毒を使って私たちを殺害できる状況を作り出せるため。貴族は対面を気にする生き物。父もそうだった。そして、この家の汚点を貴族界で知るものは私とお姉様の二人。

 たとえ公爵家が主導でなかったとしても、お茶会でなら母の友人である侍女たちが動きやすいはずです。何かしろ関与しているならこの機会に何らかの動きがあるはず。


「これはどちらが?」


「もちろん、アリシアよ!」


 お姉様が誇らしげに私の名前を告げる。そこは隠しても良かったような気がしますが、お姉様だから仕方ありません。諦めて相手の動きを見るとしましょう。


「証拠がないから何も言えない……が、本心としてはこの家から毒が出てこないことを願おう。お茶やお菓子は全て私が一口ずつ口をつけるが許してほしい」


「お父様!」


「いいんだ、ルーシア。私は私の家族を、私に仕えてくれている者たちを信じている」


「失礼な態度、申し訳ありませんでした」


 私は頭を下げて謝る。ここまで言い切って実は公爵が犯人でした、なんてことはないでしょう。あったらそれこそ、私はもう人を信じられなくなりそうです……。


 この公爵様に使用人たちは果たして毒草を見つからずに用意できるでしょうか? 私には到底無理ですね。

 父のように愚か者だったなら可能かと思っていましたが、これが父の兄ですか。見えない……というよりもこの人だからこそ父の人格が形成されたのかもしれませんね。

 優秀すぎる兄に取って代わることは確実に無理、無謀。だからこそ、よその家を自分の城にしてしまおうと。ほんと、愚かとしか言いようがありませんね。そんな血が私に……この話はやめましょう。私まで辛くなって来ました。


「いや、貴方の疑問は間違っていない。と言いたいが、アレは腐っても公爵家だ。自分で集めることも可能だったのではないか?」


「そう……なのかもしれません。父にそんな伝手があると思っていなかったので、裏がいるのかと……」


「……確かにそうだが、悪知恵は働くからな。もし、毒草についてこの家が関わっていないとしたら、この件は私も責任を持って調べる事を約束しよう」


「あの……」


「ん? どうしたんだいルーシア?」


 今まで黙っていたルーシア様が口を開ける。なにか気になる事があったのでしょうか?


「アリシア様たちのお父様は、お父様の弟なのですよね。それなら独自の仕入れ先があるのかもしれません。それに、毒草を自分で見つけてきたという可能性はあるのではないでしょうか?」


「独自の仕入れ先……か。あったとしても公爵時代のものだろう。それは私の方から探りを入れてみるとしよう。ルーシアも良く言ってくれた」


「いえ、私は疑問に思ったことを言っただけなので……。ですが、その方が自分で取ったという可能性はないのでしょうか?」


「「「それはない(わ)」」」


 ルーシア様のもう一つの意見に、父を知っている三人からすぐさま否定され驚くルーシア様。


「ああ、違うんだ。ルーシアの意見はとても参考になっている。証人を残さないために、自分一人で行う可能性も本来なら否定できない」


「……そう……なのですか?」


「ああ、だが、今回はアレだ。アレはそんな自分が危険なことや、 自分に泥が付くようなことは絶対にしないだろう」


「はい。それに、使った毒草を家に放置するような人ですので、証人などを考えるような頭はないかと……」


「そ、そうなのですね」


 リージュ公爵と私の言葉にルーシア様が引いている。あれ、私の方が酷い事を言ってる? そんな事はないですよね。だって、事実なのですから。

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