第十一話
ルーシア様が学園を休むようになってからさらに数日がたち、私とお姉様はリージュ家のお屋敷に来ている。お姉様が書いたお返事にリージュ家からはすぐに日程の問い合わせが来て、なるべく早い方がいいということになった。
案内された部屋にお姉様と待っていると、部屋に入って来たのはルーシア様と男性一人と女性が一人ずつ。男性は父と同じ、茶色の髪に空色の目。女性はルーシア様と同じ金の髪を長く伸ばしており、紫色の目をしている。
「この度はわざわざアースベルト家当主様と御息女様に来てもらって申し訳ない」
「謝罪は必要ありません。この度はお茶会のお誘いありがとうございます」
「……そう言っていただけて誠に感謝します」
リージュ公爵だと思われる人が頭を下げる。リージュ公爵からのお手紙には、お姉様の言っていたようなお茶会とは書いていなかった。ただ父のことについて謝罪したいと書いているだけだった。けれどお姉様は今回、ただの貴族同士のお茶会ということで先に手を打った。その意味は二つ。
一つは、父がしでかしたことをリージュ家が関与していないなら正式な謝罪は必要ないということ。
――関与していなければ……の話ですけどね。もう一つは……秘密です。
「……あなた」
「ああ、私はリージュ公爵家当主、オーズリー・リージュと申します。そして、妻のルイーザと娘のルーシアです」
「お初に多めにかかります、アースベルト様。ルイーザと申します。ルーシアとは仲良くしていただき、とても感謝しています」
「アースベルト家当主、シェリアと申します。こちらは養子となったアリシアです。こちらこそ、ルーシア様には仲良くしていただいてとても感謝しています」
お姉様が私の名前を呼んだ時に頭を下げる。
「「「…………」」」
「「…………」」
沈黙が続く。何を言おうか、何を言えばいいのかがわからない。本来、家の位はアースベルト侯爵よりもリージュ家の方が上なのに全員が低姿勢なために少し疑ってしまう。やはり、リージュ家全体で関わっていたんじゃ……
パンッ
沈黙が続いていた空気に小さな破裂音が聞こえる。驚いて前を見ると、ルイーザ公爵夫人が手を合わせていた。どうやら破裂音を引き起こしたのはルイーザ公爵夫人だったらしい。ルーシア様もリージュ公爵も驚いた顔で彼女を見ている。
「せっかく今日はお茶会に参加していただけるんだもの。こんな所でじっとしていたら時間が勿体無いわ。そうですよね、アースベルト侯爵?」
「……そうですね。ご案内していただけますか?」
「もちろんです。……あなた、私は少し準備をするので少し席を外していいかしら?」
「あ、ああ」
「それでは少しの間失礼します」
ルイーザ公爵夫人が綺麗なお辞儀をして部屋から出ていく。
「……私が言うのも不満かもしれない。だが、言わせてほしい。弟が多大な迷惑をかけたこと、申し訳なかった。謝ってももう遅いのもわかっている。どうにもならないことも。だから、これは私の自己満足だと思って欲しい。申し訳なかった!」
「……謝罪は受け取りました。ですが、ルーシア様が学園をお休みになっているのはこれが原因ですか?」
「それは……」
お姉様の問いかけにリージュ公爵が言葉を詰まらせる。
「ルーシア様が父のことに対して私たちがどう思うかを探らせていた「それは違う!」……」
私の問いかけに今度は被さるように否定するリージュ公爵。
「娘には何も話していなかった。これは私の父と私の問題であり、娘の代まで禍根を残すべきではないと思ったからだ」
「それならどうして? ルーシア様が休んでいた理由は体調不良ではないですよね」
ルーシア様は今も私たちと目を合わせないように俯いている。
「……娘からは仲良くさせてもらっていることを聞いて、話しておかないといけないと感じた。そうでなければ、ルーシアが本当の友人となるには難しいのではと……。だが、それを聞いたルーシアが顔を合わせるのが辛いと。今までお二人はどんな顔をして私と話してくれていたのだとショックを受けて……」
休んだと……。それならルーシア様には言っておく必要がありますね。
「ルーシア様……」
「はっ、はい!」
「私は父の家名を知らなかったのです」
「私もです」
「「……えっ」」
「だから、今回リージュ公爵から謝罪をと言われましても、あまり実感が湧いていないのです。今回の事件を起こしたのは私の父と母ですから……。ですが、リージュ公爵には聞きたい事があり本日は参りました」
「……お伺いします」
私の言葉に少し緩んでいた空気が引き締まるのを感じる。リージュ公爵もそんな空気を感じたのか畏まった言い方をしている。
「父が用意した毒草について、私は第三者の関与を疑っています」
今日の本題がようやく始まった。
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