リオン視点

 走り去っていく少女、ミラと言ったか、彼女の後ろ姿を見ながら後ろに控えているレオスに話しかける。


「彼女のクラスを変えることは可能か?」


「はい、まだ発表前なので可能だと思います」


「なら頼む。それと、彼女に監視をつけさせる」


 彼女はこれから大きな問題を起こす。そして、その問題にアリシアは巻き込まれるだろう。アリシアは嫌がるだろうが、彼女が巻き込むのは今のやりとりだけでもわかる。


「わかりました」


「素直だな」


「ええ、アレはシェリーにも害を与えそうなので」


「義娘にも問題を与えそうだぞ?」


 シェリーことシェリア嬢はアリシアの義姉であり、現アースベルト侯爵でもあり、このレオスの婚約者でもある。今は多くの問題があったために、アリシアがアースベルト家の養子となっているため、いつも揶揄っているのだが、今日は機嫌が悪いようだ。


「……」


「ククッ」


 嫌そうな顔をしているレオスを見て、笑いを堪える。そんなジト目で見るな。笑いが止まらないだろう。


「はあ、それでいじるのいい加減やめてもらっていいですかね」


「それは約束できないな」


「そんな感じだと、嫌われますよ」


「それは娘はお前に渡さないってことかい?」


「リオン、テメェ」


 レオスはこの学園に先に入って大きく変わった。今まではシェリア嬢を物理的に守れるように力をつけていたが、アリシアの影響か、勉学にもより取り組むようになった。

 そのせいか、私と接する態度が固くなっていたのだが、こうやっていじると以前のような言葉に戻る。私はそれを知ってわざと、レオスが嫌がるように話している。その方が面白いのでやめるつもりは当分無い。

 だが、今日はここまでにしておこう。早くしないと、変更する前に発表されてしまう。


「悪かった。それではそのように頼む」


「はあ、わかりました。では一時護衛を離れます」


 学園長のもとに行くレオスの後ろ姿を見ていると、アリシアから声をかけられる。小声では離していたが、聞かれてしまったか?


「リオン様はいつからご覧になっていたのですか?」


「ん? ああ、彼女が叫び始めてアリシアたちのところに向かったところからだよ」


 正直に答える。どうやら会話は聞かれていなかったらしい。そして、レオスが離れたことよりも、私がいつから見ていたかが気になったようだ。


「そんなことよりも、私たちはみんな一のクラスみたいだから、一緒に行こうか」


 話を逸らすためにクラスの確認に動こうとするが、どうやらこれもアリシアには気になる事があるらしい。姉のように、一緒のクラスになったことを喜んでくれるだけならよかったのだが。

 そんな聡明な彼女に惹かれているのだが、こういう時には少し困るな……


 アリシアはシェリア嬢も巻き込んで、どうして私がクラスを知っているかを問いかけてくる。さて、どう答えようか。


「私は王族だよ?」


 とりあえず、王族であることを押し出す。まあ事実なのだけれどね。それに、王族という方がなにかと便利だろう。利用できるものは利用しないと。


「それは、王族だから好きなクラスを選べるということですか? それとも、クラスの中身さえ自由自在ってことですか?」


「さあ、どっちだろうね?」


 答えはどちらも。けれど、私は何もしていない。したのは、さっきの彼女を他のクラスに変えてもらうことだけで、アリシアと同じクラスにしたわけでも、アリシアとシェリア嬢を同じクラスにしたわけでもない。

 だが、アリシアが私に向かって、「意地悪です」と言っているような顔を向けてくるのがとても愛おしく思う。

 もっと私を見てほしいとも思う。


 まあ、これは望みすぎか……


 アリシアの感情をシェリア嬢よりも多く引き出したいと思うのは私のわがままだろうか?


 もし、アリシアと違うクラスだったら、私は彼女の言う通りに、王族の特権を活用していたのだろうか?


 私は楽しそうに話しながら歩く二人の後ろで、自分に問いかける。


 たぶん、していただろう。彼女の側に少しでも長く居たいのだから。

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