第四話
「別に私を通さなくても、アリシアと話してもらって全然構わないわ。なんなら、私も一緒に仲良くしてもらってもいいかしら」
お姉様は貴族の階級ってものにこだわっていないのでしょう。だからこういったことを平気で言える。おそらく高位貴族であろうご令嬢が信じられないものを見るような目でお姉様を見ている。
「わ、私は男爵家で、アースベルト様とは家の格が――」
「そんなの気にしなくていいわよ。偶然でも同じ時期に学園に入学した同期なのですから、シェリアとお呼びください」
「しぇ、シェリア様……」
恐る恐るお姉様の名前を呼ぶ彼女、そういえば、名前をお聞きしていませんでしたね。ここは私が聞くとしましょう。お姉様が尋ねると今以上に萎縮しそうですし……
「申し訳ありませんが、あなたは――」
「あっ、今まで名前を告げず、申し訳ありません! 私はフローネ男爵の娘、リリア・フローネと申します」
「リリアちゃんね。これから三年間、よろしくね」
「は、はひ! よ、よろしく、お願いします」
「緊張しすぎだよ〜リラックス、リラックス」
お姉様、それは無理な話ではないかと思います。だって、貴族社会は横の繋がり。縦の繋がりが出来れはそれは大きな力となります。それをリリア様はわかっているからこそ、困っているのでしょう。男爵といっても、貧富の差は確かにあります。あまり教育を受けることができなかったということはそういう事なのでしょう。
だから、自分と近い爵位の人に頼るのではなく、平民の出であるという噂がある私に頼ってきたのでしょうから。
「勉強の件に関しては、お姉様がいいのであれば、私は構いません。これからよろしくお願いしますね、フローネ様」
「リリアとお呼びください。アリシア様もとても大変だと思うのですが、よろしくお願いします」
「大変?」
勉強を教えることが大変だという事でしょうか? でも、それを彼女が言うでしょうか。何か違うような……
「はい! アリシア様はとても優秀で、前アースベルト家ご当主様が、ご家族がいないアリシア様を引き取って可愛がられていたとお聞きしました。ですが、ご当主様が亡くなってしまい、後見になった…その……シェリア様のお父様がアリシア様を迫害なされていたと。それをシェリア様が救うため、父親の犯罪を告発し、当主となって養子にしたと聞いています。ですが……その…とてもひどい迫害を受けたため、人との関わりがつらくなったと……。ですが、どうかよろしくお願いします!」
「は、はい」
「本当ですか! ありがとうございます!」
怒涛の勢いに流され、思わず返事をしてしまう。いや、元々教えるつもりだったのでいいのだけれど…彼女から聞いた話で思ったことが一つ。
誰!?
途中の話が丸々、お姉様と私の立場が逆になっている。父親に虐待されていたのはお姉様ですし、告発をしたのは私です。
ですが、このままではお姉様が地位のために自分の家族を売ったというように噂されてしまうかもしれない。そこだけは訂正しないと。
「あの、それで、先ほどの話なのですが、一つだけ訂正したいモガっ」
お姉様に突然、口を抑えられる。なんで!? どうして!?
「? どうしたのですか?」
「ううん、何もないの。たまにこうして戯れるの。気にしないで」
「? はい……?」
疑問に思っているリリア様に聞こえないように、振り返ってお姉様に小声で詰め寄る。
「お姉様、どういうことですか!? 今のままではお姉様が父を売ったみたいに聞こえるじゃありませんか! それだけでも訂正しないと!」
「あれでいいのよ、アリシア。その方がアリシアの噂が優秀と迫害されていたの二つになるからね」
「だからって――」
お姉様が唇に人差し指をつける。その仕草を見て黙ってしまう。
「あなたが私を守ってくれていたように、私もアリシアを守りたいの。そして、こういう噂は貴族である私の仕事。私はもう当主なのだから。もう逃げないって決めたの。だから、アリシアも応援して?」
「……わかりました」
お姉様の言うこともわかる。けれど、よくを言えばこのことに関しては私が主犯のままでいたかった。この件は他の貴族に嫌味を言われることが多すぎる。けど――
「ありがとう、お姉ちゃん」
お姉様が時々読んでほしいと言っていた呼び方をする。守ってもらえるっていうのは、やっぱり嬉しいものだって思う。だから、その気持ちを表したかった。それなのに……
「あー、やっぱり、アリシアは可愛いなー」
「ちょっ、お姉様、他の人が見ているので、外では貴族らしくいてください!」
家にいる時と同じように抱きついてくるお姉様に抵抗するが、私の力ではびくともしない。
私はもう二度と何があっても、お姉様を外ではお姉ちゃんと呼ばない。そう心に誓った。
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