第三話

 私たちは今、クラス発表が行われる掲示板の前にいる。


 他にも私たちと同じように待っている人が多くいるが、みんな掲示板全体が見えるように中央に近いところを陣取っており、私たちが居る左端には人がほとんどいない。


「それではクラスを発表します!」


 係の人なのか、はたまた教師か。掲示板にかかっている布を取り去る。

 掲示板には一番上にクラスが書かれており、その下にズラッと生徒の名前が書いてある。そして、私たちはリオン様の言う通り、一の組で同じクラスだった。


「……本当に同じクラスでしたね」


「やったねー、アリシア。一緒のクラスだよ!」


「どうしたんだい、アリシア? 何か不服そうだね」


「いえ、そういうわけではないのですが――」


 不服なことはもちろんありません。お姉様と同じクラスであることは嬉しいな事です。それに、ミラという少女が同じクラスではなかったこともとても喜ばしい事です。

 ですが、それ以上に気になる事が一つ。


「どうして、私の名前が一番上にあるのですか?」


「もちろん、それは一の組で君が一番成績が優秀だったからだよ。ちなみに、一の組の成績優秀者はこの学年でも一番上という事だからね。誇っていいと思うよ」


 そう言われましても……


「わあ、さすがアリシア! すごいね!」


「ありがとうございます、お姉様」


「さて、確認も済んだ事だし、教室に向かうとしようか」


 リオン様に言われ、みんなで教室に向かう。その途中で、「こんなのおかしい! 間違ってる! アリシアー!!」そんな叫び声が聞こえたとか、聞こえてないとか。


 ええ、聞こえていませんとも。


 いいですか? この学園には紳士、淑女しか居ないのです。そんな、叫び声が聞こえるはずが無いのです。


 せめて……せめて私の名前は呼ばないでください。お願いします。


 そんな事があり、いえ、何もなかったのでした。何事もなく掲示板から離れた私たちは一の組の教室に向かうために廊下を歩いていたのですが、私たちよりも先に教室に向かっていた生徒たちによく見られる。

 まあ、ここにはリオン様も居ますし、お姉様もとてもお綺麗ですから、目立つのは当たり前ですね。ですが、ヒソヒソと話しているのは私のことでしょう。


「あの子がアースベルト家の……」


 わかっていたつもりですが、貴族とは凄まじいですね。

 この反応から名前までは知られていないのは当然ですが、養子の件は知られていたということでしょう。それがどんな風に話を捻じ曲げられているのかはわかりませんが、お姉様に迷惑を出来るだけかけたくないのですけどね……


「あっ、あのっ! アースベルト様!」


 話しかけられ、足を止める。どうやらお姉様に用事があるらしい。

 私は邪魔してはいけないと思って離れようとすると、予想もしていない言葉を耳にしてしまう。


「あのっ、掲示板で拝見したのですが、アリシア様は養子…になられた方ですよね。それはとても優秀だったからでしょうか?」


「ええ、アリシアは私よりも優秀ですから」


 彼女の質問にお姉様が肯定する。


「ではっ! もしよろしければ、アリシア様と仲良くさせていただいてもよろしいでしょうか! 私の家は男爵家なのですが、私はあまり教育を受けられず…少しでもいいのです! 私に勉強を教えていただきたいのです。お願いします!」


「それはとてもいい考えね! 私もアリシアに教えて貰おうかしら。けど……どうして私に? そういうのは直接アリシアに言うべきだと思うのだけど?」


「それは……」


 私、お姉様に教えられる事があるの……かな? 無いような気がするのだけれど。お姉様は私に何を教えられるつもりなのだろうか。

 それは別として、確かに私も気になる。どうして先にお姉様に? 平民出の私を下に見ているから? でもそれなら私に様付けしないよね?

 そう思って、今度はしっかりと彼女を確認する。黒髪のショートの女の子。あまり特出するような特徴はないが、目はしっかりと私を見つめている。


 少しの沈黙のあと、言いづらそうにしていた彼女は決意したように、口を開ける。


「アリシア様は平民の出だと聞いています。なので、アリシア様よりも先にアースベルト様に話を通さないといけないと思いました! 申し訳ありません!」


 どうしよう、想像していた以上に真っ当な理由だった。あれ? 私が思っている以上に、貴族ってまともなのかな?

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