第二話
今の状況が本来ならありえないことなので、対応に困ってしまう。どうして私は見ず知らずの人に指を指されているのでしょうか?
事の発端はお姉様と共に学園の門を通った後、ピンクブロンドの髪色をしている、おそらくお姉様と同年代であろう女性が急に叫び出したことから始まりました。
「あー!!」
叫び終えた後、彼女は周りに見られているのも気にせず、私とお姉様のもとに歩み寄り、
「あなた、転生者なんでしょう! 私は誤魔化されないんだから!」
そう大声を上げながら、指を指します。――私に向かって……
「……はい?」
「言ったでしょ、私は誤魔化されないって。私もあなたと同じ転生者なんだから仲良くしてあげようって思ってるだけなの――」
え〜と、この方は一体なんなんでしょうか? そもそも私は転生者ではありません。私のお姉様です……まあ、言うつもりも、言いふらすつもりもありませんが、この方はなぜ私を見て転生者と思っているのでしょうか?
「――聞いているの!? せっかくこの私が話かけてあげてるって言うのに! だからね――」
ほんと、なんなんでしょうか。話を聞いても、ニホン? だとか、トウキョウ? だとか、お姉様以上に聞き覚えのない単語が……
いえ、それ以上に私がこの方の話を全く聞くつもりもないので、別にどうでもいいのですけど……
「あ、あの……」
お姉様が長々と話している彼女に声をかける。お姉様のことだから、正直に自分が転生者だって言うでしょう。放っておけばいいのに……
「――私は乙女ゲームの……何かしら? 私はこれからの生活のためにちゃんと説明しないといけないのだけれど……」
「アリシアじゃなくて、私が転生者なのだけれど……」
やっぱり……さすがお姉様です。言わなくてもいいのにとは思ってしまいますが、これもお姉様の魅力ですよね。幸い、彼女に関わりたくないためか、一定の距離に話を聞いている人は居ませんし……
それにしても……
「……」
「……」
沈黙が続きます。さっきまであんなに話していたのに、標的をお姉様に変えてまた喋り出すかと思っていたのですが、違ったみたいです。
「シェリア・アースベルトが転生者……じゃあ、このアリシアは……」
お姉様の名前を正確に、それだけでなく、私の名前まで……自己紹介もしていないのに……だとすると彼女が言っていることも馬鹿にできませんね。だって、私の名前は他の貴族の家には知られているはずがないのですから。
あの家が養子を取ったという情報はあっても、誰とまでは紹介しなければ知られることはありませんし、あってはいけないのです。
「嘘よ! 悪役令嬢のアリシアがこんな……こんなに大人しくあんたと手を繋いでいるわけないじゃない! 本当ならアリシアに何をしたのよ!」
「…? なにもしていないよ? アリシアは初めて会った時からこんなに可愛いんだから!」
お姉様が私の後ろに周り、抱きついて来る。そうすれば、私の頭にお姉様の胸が当たる。
お姉様は私と比べて身長も大きく、私はあまり伸びることなく小さいままである。お姉様が羨ましい。
そのことは置いておいて、そろそろ学園側が何か行動するだろうし、なんとかこの場を切り抜けないと……
そこで、この場で一番頼れそうな人物、リオン様がこちらを見ているのに気づいた。
「リオン様、おはようございます」
「ああ、おはようアリシア、シェリア嬢もおはよう」
「おはようございます。リオン様」
「それで、そちらの方は? 何か揉めていたようだけど」
「……」
リオン様の問いかけに、彼女は何も答えない。さっきまであんなに騒いでいたのに、今では別人のようの静かなのが逆に怖い。
「リ、リオン様! わ、わ、私、ミラと申します! 以後お見知り置きを。それでは失礼します!」
彼女、ミラ様が走り去って行くのを呆然と見送る。淑女として学園で走るのはどうかとか、知って欲しいなら、もっと話しかけるのでは?
彼女が何を望んで行動しているのかがわからない。けれど、私は彼女をお姉様の平穏に、彼女の存在は危険だと認識した。
そんなことよりも…
「リオン様はいつからご覧になっていたのですか?」
「ん? ああ、彼女が叫び始めてアリシアたちのところに向かったところからだよ」
つまり、最初からということですね。まあ、そのおかげで彼女の危険性を、知ることができたのですけれど。
「そんなことよりも、私たちはみんな一の組みたいだから、一緒に行こうか」
「やったね、アリシア。同じクラスだって!」
「ええ、ウレシイですよ、お姉様」
「どうしてそんなに嬉しそうじゃないの? もしかして、一緒のクラスは嫌だった?」
「いえ、お姉様と一緒のクラスが嫌というわけじゃ、それはとても嬉しく思っています。けど……」
「けど?」
「……まだクラス発表されていませんよね?」
そう、クラスの発表はまだ行われていません。これから向かおうとしている場所で一斉にクラスが張り出される予定だったのです。そして、まだその時間にはなっていません。その証拠に、張り出されるはずの掲示板の前は入学するであろう生徒たちでいっぱいなのですから。
「たしかに」
私とお姉様が同時にリオン様に顔を向けるが、当の本人は笑顔のままである。しばらく見つめると、観念したように口を開いた。
「私は王族だよ?」
「それは、王族だから好きなクラスを選べるということですか? それとも、クラスの中身さえ自由自在ってことですか?」
「さあ、どっちだろうね?」
私の質問にはぐらかすように答えるリオン様。答えは教えてくれないらしい。
やっぱりリオン様は意地悪です。
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