【完結】悪役令嬢と呼ばれた私は関わりたくない

白キツネ

第一話

 卒業パーティー当日。私をエスコートしてくれていた第五王子であるリオン様が見当たらない。少し、キョロキョロしながら周りを見ていると、会場の中央で聞き覚えのある声が聞こえる。


 私はその場所に向かうと、王族特有の黒髪に金目の人物……探していたリオン様ともう一人、ピンクブロンドの髪を背中まで伸ばした令嬢が立っていた。そして、その背後にはお姉様の婚約者であるレオス様までもがいる。


 何かあるのでしょうか? そう思いながら、中心に向かって歩いて行くと、途中でお姉様を見つける。


「お姉様、これは?」


「わからない。レオ様からは何も聞いていないし……」


 二人して首を傾げていると、リオン様が会場に響き渡る声をあげる。


「アリシア・アースベルト嬢! 貴方に言いたい事がある!」


 公衆の面前で、リオン様が痴態を晒すとは到底思えない。だから、これは何か必要なことなのでしょう。


「呼ばれているようなので、行ってきます」


「面白そうだし、私も行くわ」


「面白がられても……」


「まあまあ、そう言わずに、早く行きましょう」


 お姉様に手を引かれ、リオン様の周りにいる人集りを掻き分けて進む。


「ようやく来たようだね」


 お姉様に連れてこられた私を面白そうに見るリオン様。いや、貴方が呼んだのでしょう! と、この場で言いたい気持ちをグッと抑える。


「それで、一体なんのご用なのでしょうか?」


「いや、彼女が君に言いたい事があるっていうものだからついね。君を呼んだと言うわけだ」


 ついってなんですか、ついって……。私が目を細めてリオン様を見ていると隣の女性がリオン様の腕に自分の腕を絡ませる。


 あっ、振り解かれた。


 振り解かれたことにショックを受けた顔をするが、すぐに私を睨んでくる。


 なんで!?


 そう思っていると、彼女は不敵な笑みを浮かべて、言葉を告げる。


「私はこのアリシアに虐めを受けています!」


「はっ?」


 堂々と虐められている宣言をした彼女は勝ち誇った笑みでこちらを見てくるが、虐めた記憶もないし、虐められている人物が普通、こんな堂々としているかな?


「ほう、それは面白い。何が……とは聞かない。それはした、していないの掛け合いになるからね。だから、アリシアが君をいじめる理由を聞こうか」


「はい! やられたことは数知れず、言い切れませんが、理由は明確です! 彼女は私がリオン様と仲良くしていることに嫉妬しているのです!」


「へぇ、アリシアは嫉妬してくれるのかい?」


 そう言ってリオン様は私の頬に手を当てる。金色の目がとても綺麗で……違う、今はそんなことを言っている場合ではありません。


「そんな事実はありません」


「そうか、それは残念だ」


「騙されてはいけません! その悪女は多くの嫌がらせをしているのです! それは姉だと言っているシェリアも虐めてるんですよ!」


この人は一体何を言っているんでしょうか。お姉様を虐める? 私が? あり得ません。


「貴方はいったい――」


 そこまで言いかけて、彼女の後ろにいる人物、さっきまでリオン様を護衛していたはずのレオス様が帯刀していた武器を振り降ろそうとしている。


「レオス様、流石に殺すのはいけません!」



「アリシア、どうしたの?」


「えっ」


 お姉様の声が聞こえ、周りを見渡すとさっきまでいたパーティー会場ではなく、ベッドの上だった。


「うなされていたみたいだけど大丈夫?」


 うなされていた? じゃああれは夢? 妙に現実的だったような気がする。


「少し早いけど、今日は学園の入学日だし少し早めに起きようか」


「……はい、ごめんなさい」


「なんで、アリシアが謝るのよ。そんな必要はないわ。早起きは三文の徳って言うしね」


 お姉様は時々、異世界の言葉を使う。それはお姉様が転生者であり、シェリア・アースベルトとして転生したらしい。そして、この世界のことを小説という、物語を書き記した本で知ったと言っていた。

 それでも、お姉様は全部を知っているわけではなく、知っていたとしても未来は大きく変わっているらしい。主に私のせいで……。何かしたつもりもないんですけどね……


 お姉様と私は歳が一つ違うが、学園の飛び級制度を利用してお姉様と同じ学年で入学できることになった。


 その事がとても嬉しく、今日、二人でこの学園の門をくぐれることを楽しみにしていたのに……


「あー!!」


 聞いたことのない声のはずなのに、とても嫌な予感がする。私の中で、とても楽しい気持ちが一転、早く時間が過ぎ去ってほしいと思ってしまう。

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