第2話 全ての想いを絵に添えて
―半年前―
夕璃はハルマに大事な話があり、食事に誘った。
個室の焼肉と鍋料理がメインのお店を選んだ。
「お久しぶりです。コミケ以外でお会いするのは初めてですね」
「そうですね。そういえばこの前秋葉原で個展やってましたよね」
「先生がご存知だったなんて、なんか嬉しいです」
二人はまずお酒のつまみになる桜ユッケと鶏たたきと、牛タンとカルビを注文した。
お酒はハルマがレモンサワー、夕璃が角ハイを注文した。
料理が運ばれてお酒を酌み交わし、雑談をしながら焼肉を食べ始め、しばらくして夕璃は本題を切り出した。
「実は今日大事な話があって誘ったんです」
「大事な話ってなんですか?」
「次回作が決定して、そのイラストをハルマさんに頼みたいんです」
ハルマは驚きと喜びが混じった顔で目を見開いていた。
「新作おめでとうございます。でもなんで僕なんですか?七里ヶ浜先生ではないんですか?」
その質問に夕璃は黙りこんでしまった。
ハルマが英里奈に好意を抱いていたのを知っているため、どんな説明をしたらいいのか分からなかった。
だが、夕璃は意を決して包み隠さずに全てを話した。
英里奈が夕璃を好きだったこと。
夕璃が英里奈の告白を断って、英里奈がイラストレーターとして成長するために外国に行ってしまったこと。
次回作は夕璃が、誰一人欠けない平和な日常を手に入れるために書いた小説だということを。
「そうだったんですね……話してくれてありがとうございます。正直、七里ヶ浜先生が先生のことを好きだったのは薄々気づいてましたし何とも思っていません。でも――自分が何も出来ずに七里ヶ浜先生が外国に行ってしまったことに無力さを感じてます」
そう言いながらハルマは拳を強く握った。
「俺も、その場にいながら何もできなかったです。でも次回作の小説に想いを乗せて、国境を越えた英里奈のところまで届くように有名にして英里奈に帰って来てほしいんです」
「僕も、先生の小説の絵に想いを添えていいですか?」
ハルマは自分の無力さに向き合いながらも、希望を宿した目で夕璃の目を見た。
「ぜひお願いします。ハルマさんの魂からの想いを絵にぶつけ、二人で小説を有名にして英里奈の元に届けましょう」
「はい!改めてイラストの仕事の依頼、お受けします」
こうしてラノベ業界を揺るがした『俺は平和な日常がほしい』のイラストレーターが決まった。
「こうしてコンビを組んだんですから先生は敬語やめてくださいよ」
「分かりまし……分かった。これからよろしく、ハルマ」
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