続・俺は平和な日常がほしい

ムーンゆづる

第1話 新婚生活

「この机組み立てたら最後だね」


 桜華が机の脚を裏返した天板に付けながら、終わっている家具を見て言う。


 元々桜華の家にあった物や夕璃の家から持ち込んだ物、新しく買った物がリビングと寝室に並べられている。


 夕璃はしっかりとした形でプロポーズをし、桜華の両親と自分の両親に結婚の報告を済ませた。


 二人はもう夫婦なので、別々の家に住むわけにもいかないため夕璃が住んでいた家を愛に譲り、桜華の家を家具を少し変えて二人の家にした。


「家具も並べ終わったし休憩するか」

「アイスコーヒーよろしくー」


 夕璃はインスタントのアイスコーヒーを作り、ペアのマグカップに注いで一つを桜華に渡した。

 二人は向き合って座り、一息ついた。


「これから新婚生活か……イマイチ実感ないんだよな」

「結婚式はいつにする?新婚旅行の場所も決めないと」

「落ち着けって。これから二人の時間はたくさんあるんだからゆっくり決めようぜ」


 プロポーズしてからの桜華はテンションが高く、幸せな顔で日々を過ごしている。

 夕璃も桜華の笑顔に釣られて無意識に笑った。


「そうだね。じゃあせめて――子どもはもう作っちゃう?」


 夕璃は口に含んでいたコーヒーを吹いてむせた。


「それが一番早いんだよ!桜華はまだ大学生だしBS文庫に就職する予定なんだから子どもはまだ早いだろ」


 桜華の就職活動は既に始まっていて、BS文庫の面接は全部で三回あり、二次面接まで通過している。

 最終面接は一ヶ月後にある。


 芹那には桜華の面接をしないようにと言ってある。

 桜華は自分の力で掴み取りたいのだ。


「でも避妊すればやることは――」

「まずは段階を踏めー!」


 二人の新婚生活は幕を開けた。



 コーヒーを飲み、休憩した夕璃はBS文庫の会議室に訪れた。


『俺は平和な日常がほしい』の二巻の打ち合わせにやってきたのだ。


 夕璃の担当編集者がまだ未定なので決まるまでは芹那が担当している。


 芹那と会うのは一巻が発売して以来である。


 夕璃はノックをして会議室に入る。


「お疲れ様です芹那さん」

「お、来たか新婚さん」

「あ、ありがとうございます。でもその呼び方は恥ずかしいのでやめてください」

「まさか桜華が意外にも攻めだったとはな」


 芹那はニヤニヤしながら夕璃をいじり倒した。


「今日は俺以外にも打ち合わせに来るんですからその辺にしておいて下さいよ」

「絶対会う人全員に新婚さんって言われるぞ」

「そんなまさか」


 今日打ち合わせに来るのは『俺は平和な日常がほしい』のイラストレーターだ。


 イラストレーターの話をしているとちょうどやって来た。


「あ、先生ご結婚おめでとうございます。新婚さんですね」

「ほらな」

「ありがとう。でもなんでも言うんだよ」


 やってきたイラストレーターは同人活動をメインにしていたハルマだ。


 ハルマが『俺は平和な日常がほしい』のイラストレーターを引き受けたのには『俺ラノ』のファン以外にも理由があった。


 遡ること半年前――

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