1-7
その日の昼休み。友人らそっちのけで昼飯をかきあげると、足早と教室を出、三年の階へと行った。
ちなみにこの学校は四階建てで、上から順に一年、二年、三年となっており、朱音は一年であるため四階で、三年のクラスが並ぶ階は二階である。
三年の階に行ったものの、生憎『しおんにぃ』以外の名前は覚えておらず、捜そうにも捜せなかった。
であれば、昨日のように携帯端末にあのストラップを付けている人を捜すしか。
そう思い捜そうとしたものの、不意に周りを見て思った。
一年であるとひと目でわかる色の上履きが一人、三年だと分かる色の上履きがそこかしことあり、自分が異質のように思え、心細く感じていた。
実際、すれ違う度に多くの視線を感じたり、「一年生が三年生の階に何か用が来たのかな」「兄弟でも用でもあるんじゃん?」と好奇の目に晒されていた。
一年なんて全くもって珍しくもないのに、そこまで見なくていいのに。
俯きがちに『しおんにぃ』の姿を捜していた。
「そこの一年! 何しに来たん?」
とある教室を横切ろうとした時、扉付近にいた三年の男子が声を掛けてきた。
思わずその方へ向けると、上着と中のワイシャツを全部開け、赤いシャツを着た、やんちゃそうな男子が人懐っこそうに笑いかけてきた。
つられて笑い返すと、「·····ちょっと、人捜ししてまして」と答える。
「人捜しぃ? 兄弟でも捜してんの?」
「兄弟·····なんですけど、昔急にいなくなっちゃいまして」
「·····ほう? その兄弟がこの学校にいたってことか? 誰なんだ?」
「名前、は·····分からないです」
「は? マジ? そう来る? 冗談?」
「冗談じゃないんですよ。俺はいつでも大真面目っす!」
「であれば、大真面目な一年君。兄弟であれば名字は同じだろう?」
「あっ、そっ·····か·····?」
納得でしかけたが、一瞬そうじゃないと思い、曖昧な言い方になってしまった朱音の様子に、三年の生徒は首を傾げていた。
言われてみれば兄弟であるのなら、当たり前に名字は一緒である。だが、違うような気がした。何故、違うと思うのかが分からなくて、気持ち悪さを覚える。
「真面目すぎる一年君?」
「え、あ·····大真面目な一年の朝田と言います」
「あさだ·····? ああ! あさだか!」
声を上げたその男子生徒が、「あさだに兄弟いたなんてなー! 俺の知ってるヤツだわ! 案内するぜ」と言って、どこかに行こうとしているのを、少しばかりの期待を込めてその後をついて行くことにした。
胸辺りのスッキリとしない気分を抱えつつ、『しおんにぃ』に会える嬉しさを覚えて。
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