僕の彼女はスカートです

Mari

*

僕、石田陽太の彼女は『スカート』です。


え?何を頭おかしい事言ってるのかって?

僕も最初は思ったさ。

だけど本当の事だし、彼女がそう言ったんだもの。


僕は高校生にもなって今までちゃんと恋愛というものを経験したことが無かった。

容姿が取り立てて良いわけでもないし、学力だって平均的。


そんな僕だけど、高校に入学してから好きな人が出来た。


入学式の日に僕が落としたハンカチを後ろを歩いていた彼女が拾って渡してくれた。

ただそれだけの事だったのに、いとも簡単に僕は恋に落ちた。


恋心に拍車をかけたのは、同じクラスであった事と50音順になった席のお陰で隣だったという事だ。

石田というありふれた苗字にこの時は感謝をしたものだ。



来嶋 菫という僕の横の席に座る鼻筋の通った顔立ちでどこか優艶な雰囲気を纏い、所作も綺麗な彼女に僕は恋心を爪が食い込むような強さでぎゅっと掴まれた様だった。


一緒になって燥いだりはしてないが、中学からの友人や高校に入ってから仲良くなった人等、来嶋さんには僕とは違って友人が多かった。

容姿が容姿なだけに、他のクラスからの男子生徒からの呼び出しも絶えることが無かったように思う。


来嶋さんは特定の彼氏を作っているような気配はなかった。

皆振ってるんだろうか。

告白されている現場を見たことは無いが、誰々と付き合っているだなんて噂も聞いたことが無かった。



僕が告白したのは、雨の降る放課後だった。

席が隣同士の者で日直が回ってくるのだけど、今日は僕と来嶋さんが日直の日で担任に頼まれた雑用をあれこれやっていたら遅くなってしまった。


昇降口で外をぼんやりと見つめた来嶋さんは上履きを脱ぐ僕の方に振り返った。


「傘持ってる?」


今朝母親が天気予報を見て傘を持たせてくれた為、折り畳み傘を持っていた。


「1つしか持ってないから来嶋さん使う?」


僕の家は学校から走れば3.4分だし、来嶋さんが雨に濡れて風邪を引くのは嫌だと思った。


「どうして?方角一緒だったよね?一緒に帰ろうよ」


それは相合傘になってしまうではないか。

いや、来嶋さんはそんな事気にしなさそうだな。


僕と来嶋さんの頭は青色の折り畳み傘に隠れ、2人の足元のローファーは歩幅を合わせながら傘では避け切れない雨に打たれていた。



チャンスではないのか。


僕は隣を歩く来嶋さんを横目で見て思った、告白するなら今じゃないのかと。


「来嶋さん、僕、入学式の日からずっと.....」


そこまで言うと来嶋さんは鼻をすすりながら、「君が4人目」と言った。


4人目?

今まで告白してきた男子の人数か?

そんな筈ない、もっと多いだろう。

とすれば、今日告白してきた人数か?


頭を捻らせていると、来嶋さんはこう言った。



「石田君は私のスカートの彼氏にしてあげる」



何を言っているんだろう。


「気付いていると思うけど、私モテるの。だからね.....」


来嶋さんは告白してくれた男子に自分も興味が無いわけではないという対象にはOKをしているらしい。

だけど告白をしてくる人数が多いから自分の物を1つずつ渡してそれを私の分身として彼女にしてあげて、との事だった。


何を言ってるんだろう、と思ったのも束の間。


「石田君は私の事ずっと横で見ててくれてたの分かってたから嬉しかったの。だから一番私の香りが強いスカートの彼氏にしてあげる、これからよろしくね、大好き」


そう言って微笑んだ彼女の瞳には一点の曇りもなく、恋人の様な表情で僕を見つめていた。

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