第23話▼緊急事態! ダブルワークとマイナンバーの罠②

「えっ……ダブルワークが出来ないんですか?」


 私は素っ頓狂な声をあげつつ、スーパーマーケットの面接担当者に尋ねた。


「だって、ウチの方で働く時間の方が長いんでしょ?」


 この直前に、私は面接官から、「パートだけで生活できるの?」と尋ねられたので、「バイトを掛け持ちするから大丈夫です」と答えていた。


「従業員がダブルワークをしたとした場合、支払い給与の多い会社が、その人の社会保障費とかを払わないといけない仕組みになっているんだ。もし君がフルタイムで働いてくれるんならウチも快く支払ってあげられるんだけど、残念ながら今のところ、フルタイムで募集していないしねぇ~」


「で、でも、大学生とかのアルバイトで掛け持ちってよく聞くと思うんですけど……」


「ああ、法律が変わって"マイナンバー"の提出が義務化されるようになってから、その人がダブルワークしているかとかが簡単に分かるようになっちゃったから、そういう抜け穴みたいなことは出来なくなっちゃったんだ」

「だから午前中だけ来てくれるパートの人に社会保障を支払うってなると問題があるんだよね」

「もしダブルワークしないって約束してくれるんなら、午前中だけでも入ってくれるとありがたいな~って思っているんだけど……どうする? 入る? 辞めとく? 生活は出来そう? ……聞こえてる?」


 頭の中が真っ白になるとはこのことだ。迫っ苦しい事務室はただでさえ息がつまりそうなのに、私は呼吸もつかえるほど混乱していた。

 当然のことながら、午前中のパートだけでは生活なんてできない。かといってこのスーパーにはフルタイムで入れるシフトもない。

 徒歩圏内にあり、利便性がとても良く、時間に融通を利かせることができる。そして何より、高卒認定試験には合格したものの、それ以後は漆塗りの仕事しかしてこなかった、他の仕事に活かしようのないスキルしか持っていない自分にも出来そうな仕事だと思っていた。だからこのスーパーには期待をしていたのに……まさかマイナンバーカード普及が足枷になるとは思いもしなかった。


「悪い事言わないないから、他の場所に面接受けに行った方がいいと思うよ~」


「……そうします」


 マイナンバーがあるからダブルワークはうんぬんかんぬんという話は事実のなのか、未だに分からない。

 だけどその場での私は、大人しく引き下がるほかに選択肢はなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る