第22話〇世界一幸せな年越しそば②
「よかったら年末はみんなでおせち料理でも作って食べない?」
私は言語交流会の席でメンバー一同に提案した。
「おせち料理って何?」
中国系カナダ人のインが尋ねた。彼女はサンリオキャラクターのみに誘われて訪日したのであって、日本文化に詳しいわけではない。当然、おせち料理なんて聞いたこともないという風だった。
「私、知ってる。お正月に食べる特別な料理よね」
ポーランド人のオラが答えた。彼女は大学で神道を勉強していただけあって、日本の文化全般に詳しい。頼りになる。
「結構作るの大変だけど、どんなものを作るつもりなの?」
日本人のユリさんが尋ねてきた。住民の約半数が外国人の当シェアハウスにおいて京都出身の彼女と話すと、少しホッとする。
おせち料理に何を作るかを私たちは相談し合った。今となっては何を作ったのかよく覚えてはいないが、料理の大半を私が担ったことを鑑みると、おそらく『こんぶ巻き』『くりきんとん』『黒豆』『たたきごぼう』『筑前煮』と作ったのではなかろうか?
とにかく、筑前煮を作ったのは確かだったと思う。筑前煮には彩のために花の形をしたニンジンが必要だ。
大晦日当日の夕方、キッチンに立ってちまちまとニンジンに飾り包丁を入れていたところ、オラが物珍しそうに眺めていた。
得意になった私はフフンと斜に構えて、「出来る?」と尋ねたことを覚えている。今思えば痛さ爆発である。
× × ×
日が暮れる頃にはキッチンダイニングに人が集まりだし、ガキ使が始まる頃には各テーブルにて仲良しグループ同士の小規模な宴が開かれるようになった。
私たちもおせち料理の支度を終え、テレビ前の一区画を陣取り、席に就いた。
その日のうちにおせち料理が仕舞えてしまわないように、年越しそばも用意した。琥珀色の関西風の出汁の上にニシンを浮かべてある。
「それじゃあみんな、今年はありがとうございました。来年もよろしく!」
「ヨロシク~」「よろしくお願いします」「よろしくね~」「早く食べよう!」
何はともあれ無事におせちを作り上げることが出来て、私は満足していた。ぶっつけ本番だったので内心ヒヤヒヤものだった。みんな美味しそうに頬張っているし、私自身が味わってもそれなりに旨いので、失敗ではないのは確かだ。
「おお! おせちじゃん! スゴイな、みんなで作ったの?」
他所のグループに参加していたカズさんが覗きに来てくれた。
「よかったらカズさんもどうです?」
「えっ、いいの? いや~、悪いよ~。悪いったら~……そこまで勧めてくれるなら、ちょっと貰おうかな」
途中からカズさんも加わって、和気あいあいとおせちを突き合った。
(※本日はここまで)
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