➁マグカップ。

 「つか・・・こんな時間に何の用だったの?」

  小狭いアパートのリビングとも呼び難いその部屋で、あたしの淹れた珈琲を一口飲んでから、彼は訊いてきた。

 「・・・月を・・・一緒に観たかったの。すごく綺麗だったから」

 「はぁ~~?」

 彼は素っ頓狂な声を上げて、あたしを呆れ顔でみつめた。

 「変かな?」

 あたしは立ち上がりカーテンを少し開けてから、隣に来るよう彼を促した。

 翠は面倒臭そうにこちらにやって来て、カーテンの隙間から空を見上げた。

 濃紺の闇に浮かぶ蜂蜜色の満月が、二人を明るく照らす。

 「ね?綺麗でしょ?」

 言いながら、あたしは隣にいる翠を見やった。

 顎鬚が、少し伸びていた。

 「そうかー?・・・星の方が綺麗じゃね?」

 言いながら元の場所に座ると彼は、夜空と同じ深い藍色のマグカップを持ち上げて口に運んだ。

 それは。

 半年前、付き合って100日目の記念に二人で選んだお揃いのカップだった。それなのに、二人のカップの中身の色はいつも違った。

 付き合い始めの頃はそれが新鮮だったし、それが良かった。

 だけど。

 最近のあたしは、そんな些細な二人の違いが気になって仕方がなかった。

 翠は、気になってはいないんだろうか・・・。

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