月が、消える。

山下 巳花

➀夜中の電話。

 その月が余りにも綺麗過ぎて、今この瞬間、彼と一緒に見たいと思った。

 時計の針は、0時を少し回ったところだった。

 (・・・寝てるかな?)

 やや躊躇したけれど、あたしは思い切って彼のケータイに電話をかけた。


 2回目のコールで、彼は出た。

 「どしたー?」

 真夜中にしては、声が意外に明るくて少し戸惑った。

 「こんな時間に、ごめん・・・起こした?」

 「いんや・・・起きてた」

 「今、大丈夫?」

 「うん。てか、もうすぐ旬夏しゅんかんちに到着するし」

 「え?」

 「深雪みゆき先輩んち行ってたんだ!」

 彼の声は、少し弾んでいるようだった。

 「深雪の・・・家・・・に?」

 彼の声色とは裏腹に、あたしは表情を曇らせた。


 彼の言う「深雪先輩」、とは。

 あたしの職場の同僚で、去年まで彼の大学の先輩だった。

 更に、あたしと深雪の家は目と鼻の先にあって。

 そして。

 あたし達は、彼女の紹介で知り合った。


 「深雪先輩、なんか彼氏にフラれたっぽくてさぁ・・・慰める、的な?」

 「そうなの?・・・知らなかった」

 「てか、旬夏んち着いたし」

 「あ、開けるね?」

 「おっけ!」

 不穏な面持ちでドアを開けると、そこには笑顔のあきらが立っていた。

 

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