第55話 第二次オアフ島航空戦

 昭和一八年五月一日、オアフ島北西沖の攻撃発起点に到達した第一機動艦隊は各空母から二個中隊、合わせて三八四機の紫電改を出撃させた。

 また、索敵や対潜哨戒、それに前路警戒や空戦指揮については「大和」型空母の一個中隊、四八機の一式艦攻がこれら任務に就いている。

 また、敵艦隊が出現した場合には九六機の紫電改と一六八機の一式艦攻がそれらの攻撃にあたる。



 第一機動艦隊

 第一艦隊

 空母「大和」「天城」「葛城」「比叡」

 重巡「青葉」

 駆逐艦「雪風」「初風」「天津風」「時津風」「浦風」「磯風」「浜風」「谷風」


 第二艦隊

 空母「武蔵」「笠置」「阿蘇」「霧島」

 重巡「衣笠」

 駆逐艦「黒潮」「親潮」「早潮」「夏潮」「朝潮」「大潮」「満潮」「荒潮」


 第三艦隊

 空母「信濃」「生駒」「筑波」「金剛」

 重巡「古鷹」

 駆逐艦「秋雲」「夕雲」「巻雲」「風雲」「朝雲」「山雲」「夏雲」「峰雲」


 第四艦隊

 空母「甲斐」「伊吹」「鞍馬」「榛名」

 重巡「加古」

 駆逐艦「萩風」「舞風」「野分」「嵐」「陽炎」「不知火」「霞」「霰」


 第五艦隊

 戦艦「長門」「陸奥」

 重巡「妙高」「羽黒」「那智」「足柄」

 駆逐艦「長波」「巻波」「高波」「大波」「清波」「玉波」「涼波」「藤波」



 艦上機については「大和」型空母が紫電改が七二機に一式艦攻が二四機、「天城」型空母は紫電改四八機に一式艦攻一二機、「金剛」型空母は紫電改四八機に一式艦攻六機を搭載する。

 空母一六隻とそれらを守る護衛の重巡洋艦が四隻に駆逐艦が三二隻、運用される艦上機は常用機だけで一〇八〇機にも及ぶ。

 さらに二隻の「長門」型戦艦を基幹とする水上打撃部隊も一機艦の前衛としてこの作戦に同道している。


 一方、米軍のほうだが、一機艦がオアフ島に来寇した時点で、同島には陸軍のP38とP47がそれぞれ約二〇〇機、それに海兵隊のF4Uと海軍のF4Fがそれぞれ約一〇〇機の合わせて六〇〇機の戦闘機が各地の飛行場に展開していた。

 これだけの戦闘機を集めることが出来たのは早々にミッドウェー島の防衛を諦めたからだ。

 当初、ミッドウェー基地には海軍と海兵隊のF4FとF4Uが合わせて一〇〇機ほど配備されていた。

 しかし、この程度の戦力では一機艦の戦闘機隊に対抗するのは不可能であり、相手にさほどのダメージを与えることもなく、一方的にすり潰されるのは目に見えていた。

 そこで、これら戦闘機はオアフ島に引き揚げさせ、このことで同島の戦闘機戦力は一段と厚みを増した。

 しかし、いくらオアフ島の飛行場が広大で管制能力が高くても、さすがにその収容力には限界がある。

 このため、オアフ島に増勢されるはずだった爆撃隊の一部は米本土に留め置かれ、同島の爆撃機は二五〇機程度にとどまっている。

 さらに、これらの爆撃機のうちでB17については索敵や哨戒任務を抱えていたから、本業の爆撃に使えるものはそれほど多くなかった。






 オアフ島のレーダー基地が四〇〇機近い日本の編隊を捉えたとき、空戦指揮官はそれがすべて戦闘機で固められたファイタースイープ部隊であることを看破していた。

 昨年のオアフ島攻防戦では敵の第一次攻撃隊を戦爆連合と見誤り、このことで大きな損害を被ったが、さすがに二度も同じ手に引っ掛かるような真似はしない。

 さらにこの日、日本軍機の襲来が確実視されていたことで稼働機のうちの半数が上空警戒、残る半数が地上で即応待機の状態にあった。


 空戦指揮官は即応待機中の戦闘機隊に急ぎ発進するよう指示するとともに、上空警戒中の戦闘機隊についてはただちに日本軍機を迎撃するよう命令した。

 空戦指揮官に逡巡はなかった。

 日本軍機の四〇〇機に対して上空警戒組のそれは三〇〇機と数こそ劣勢だが、しかしこちらのP38とP47、それにF4Uは二〇〇〇馬力級の新世代戦闘機なのだ。

 それら三機種はそのいずれもが六〇〇キロを大きく超える速度性能を持ち、日本海軍の主力戦闘機である零戦よりどんなに少なく見積もっても五〇キロ以上は優速だ。

 P38やP47、それにF4Uがその速度性能で零戦を翻弄し、敵を拘束する。

 そして、わずかに遅れてやってくる同じく三〇〇機からなる迎撃第二陣と合同して零戦を包囲殲滅する。

 いくら日本軍の搭乗員が腕利きといっても零戦とこちらのP38やP47、それにF4Uとは世代が違うのだ。

 いかに彼らのテクニックが優れていてもテクノロジーの差を埋めることは至難のはず。


 「もらったな、この勝負」


 空戦指揮官は誰にも聞こえない声でつぶやく。

 彼にとって怖かったのは、日本軍機が超低空で侵攻してくることだった。

 この時代のレーダーは低空域での目標捕捉を非常に苦手としている。

 そして、日本の連中は超低空飛行による進撃を可能とするほどに腕の立つ連中ばかりだ。

 だがしかし、連中は堂々と中高空から大編隊を維持して正面から殴り込んできた。

 敵はこちらの新型機の情報はつかんでいるはずだが、しかしオアフ島に六〇〇機もの戦闘機が配備されているとは夢にも思ってはいないのだろう。


 「空の戦いは数の戦いだ。それは一つの真理として間違いない。だが、質もまた大事だ。零戦はP38であればその格闘性能を生かせば対抗可能かもしれないが、しかしP47やF4Uには到底及ばない。つまり我々は量において、そして質において連中を凌駕している。

 そのような中で敵は奇襲ではなく正面突破を図ってきた。零戦の性能と搭乗員の技量に絶対の自信をもっているのだろう。しかし、それは明らかな誤りだ。そして、質と量に劣る側が戦術ミスをすればリカバリーは不可能だ。彼らは油断と慢心、それと傲慢によって自ら墓穴を掘ったのだ」


 このとき、空戦指揮官は友軍の勝利をまったくと言っていいほどに疑っていなかった。

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