第14話 新型機

 従来機に比べて画期的ともいえる性能を持つ九六陸攻や九七艦攻といった近代的な単葉の双発爆撃機やあるいは単発艦上攻撃機を手に入れた帝国海軍ではあったが、しかし日進月歩で進化を続ける航空機の世界において両機が短期間のうちに陳腐化するのは目に見えていた。

 当然のことながら、帝国海軍は新鋭機開発のペースを一切緩めることはなく、むしろさらにピッチを上げて九六陸攻や九七艦攻の後継機、つまりは一二試陸上攻撃機ならびに一三試艦上攻撃機の試作を矢継ぎ早にメーカーに指示している。


 一二試陸上攻撃機や一三試艦上攻撃機に第一に求められたのは九六陸攻や九七艦攻には十分に施すことが出来なかった搭乗員保護のための優れた防弾装備だった。

 もちろん、防弾鋼板や防漏タンク、それに自動消火装置などを装備すれば機体はその分だけ重くなる。

 そして、それは当然のことながら速力や燃費、それに運動性能に無視できない悪影響を与える。

 そのことで帝国海軍は航続距離を妥協し、さらに母艦において運用される一三試艦上攻撃機についてはカタパルトの開発のメドが立ったことで離陸滑走距離の要件を緩和し、さらに着艦速度についても同様の措置をとった。


 それらのことが奏功し、一二試陸上攻撃機と一三試艦上攻撃機はともに昭和一五年中に機体がほぼ完成し、昭和一六年一月にそれぞれ一式陸上攻撃機ならびに一式艦上攻撃機として制式採用される。

 一式陸攻は双発、一式艦攻のほうは単発で両機種ともに大排気量発動機の火星発動機を搭載する。

 従来の発動機とは一線を画する一五〇〇馬力を叩き出す火星によって一式陸攻と一式艦攻はともに一〇〇〇キロの爆弾搭載量を確保、落下増槽と併用できる新型投下装置を採用し二五番なら四発、六番なら一六発を搭載出来た。

 ただし、一式艦攻のほうは六番を胴体下に一二発までしか搭載出来ず、残る四発は両翼のハードポイント下に装備された投下装置に懸吊する。

 また、両機の爆弾搭載量の増大によって爆弾や魚雷も新型のものが開発された。

 四一センチ砲弾を流用した八〇〇キロ徹甲爆弾、炸薬を初期型の二倍に増強した新型九一式航空魚雷のほうはその重量が一〇〇〇キロ近くに達する。


 一方で、一式陸上攻撃機ならびに一式艦上攻撃機には急降下爆撃能力は付与されていない。

 これは、帝国海軍がすでに急降下爆撃についてこれを過去の戦術だと判断していたからだ。

 帝国海軍は従来の九二式七・七ミリ機銃や九三式一三ミリ機銃に替えてホチキス社製の二五ミリ機銃を九六式二五ミリ機銃として制式採用し、さらにボフォース社製の四〇ミリ機関砲の導入を検討している。

 これらの近接対空火器の充実は他の列強も同様であり、このことで敵艦上空数百メートルにまでダイブブレーキを利かせながら低速で肉薄する急降下爆撃は当然のごとく被弾確率が高くなる。

 それでもまだ七・七ミリや一二・七ミリクラスの銃弾であれば被弾しても生き残れる可能性はあるが、しかし二五ミリ弾や四〇ミリ弾をカウンターで食らえばまず助からない。

 それに、対空射撃指揮装置も日々進化しており、その命中率は依然として低いとはいえ、それでも従来のものに比べればずいぶんと改善されている。

 確かに、現状において急降下爆撃は最も命中率の高い戦技ではある。

 だが、それは搭乗員の命を引き換えとした無謀一歩手前の危険な戦術であり、ひとたびこれを行えば機体と搭乗員の大量損耗を招くことは必至だ。


 そこで導き出された結論が急降下爆撃ほどの命中率は期待できない半面で水平爆撃よりは明らかに好成績が見込める緩降下爆撃の採用だった。

 命中率の低下は投下弾量で補う。

 一式艦攻であれば四発の二五番を運用できるが、これに対して従来の九六艦爆は一発しか搭載出来ない。

 逆に言えば、命中率が急降下爆撃の四分の一であったとしても、四倍の爆弾を投下すれば十分にカバー出来ることが計算の上では成り立つ。


 さらに、帝国海軍は艦艇の対空火器増強に対抗するために誘導兵器の開発にも着手している。

 急降下爆撃にせよあるいは緩降下爆撃や水平爆撃にせよ、速度や高度の違いこそあれ投弾のために敵艦上空を航過しなければならないことに変わりはない。

 被弾率の差はともかく、そのいずれの爆撃法も敵の熾烈な対空砲火から免れることは出来ない。

 だからこそ、可能な限り遠方から敵に爆弾をぶつける方法を考える必要があり、その答えが誘導兵器の開発だった。

 航空主兵主義に転換した帝国海軍にとって、搭乗員保護はすでに最優先事項となっていた。

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