第27話 真姫の影
四人が遊園地に行った次の日。
真姫が勉強を教えてくれると約束してくれたが、真姫からの詳しい日程は送られてこなかった。
三人は何か事情があるのだろうと決めつけ、その日はそれぞれ勉強した。
―次の日―
期末テスト一日目の学校は生徒の緊張で空気が張り詰めていた。
翔夢以外にもテストが始まるまで教科書とにらめっこしている生徒が大勢いた。
期末テストは四日間に分けて行われ、一日二時間だ。
翔夢は二教科のテストを終わらせ、明日の教科の勉強をするためにすぐに教室を後にした。
廊下を歩く生徒は誰もが「あそこの問題難しかったよな」「あの記号問題1番で合ってるよな?」と、友達とテストの感想や答えが一緒かを確認し合っていた。
翔夢が校門を出た時、後ろから誰かが駆け足でやって来た。
振り向くと、そこには息を切らして慌てる咲絆がいた。
「どうした?そんなにテストがやばかったか?」
「違うよそんなことじゃない。真姫が学校に来てないの」
小説の締め切りもないので真姫がテストなのに学校に来ない理由は体調不良以外思いつかなかった。
「とりあえず心配だし真姫先輩の家に向かうか」
二人は早歩きで真姫の家に向かった。
その道中――二人の元に同時に真姫から連絡があった。
『今から原宿来れるー?』
と、咲絆の元には来ていて翔夢の元には
『今から神奈川の七里ヶ浜に来てほしい』
と、送られてきた。
「なんで二人に、しかも行く場所がお互い違うんだ?」
「今からってことは時間は一緒だよね」
二人はお互いの送られてきたメッセージを見せ合いながら首を傾げていた。
「今の真姫先輩は色々悩んでるし確認する前に行ってみた方がいいだろ」
「そうだね。じゃあとりあえず駅に向かおっか」
二人は真姫の家から駅に目的地を変えて駆け足で向かった。
「じゃあ私は原宿に行ってくるから神奈川までよろしくね」
「分かった。真姫先輩はどっちかにいると思うからいたら教えてくれ」
そう言って二人は別々の改札を通った。
電車に揺られること一時間。
藤沢に到着し、そこから江ノ電に乗り換えた。
江ノ電に乗り住宅街を抜けると、広大な海が見えてきた。
今年初めて見る海に興奮しながらも、真姫がここにいる理由を未だ不思議に思っていた。
駅に到着し、数分歩くとそこには七里ヶ浜が広がっていた。
真昼の太陽が反射する海はまるで鏡のようで、翔夢は無意識に手で目の上に屋根を作った。
階段の上から浜辺をぐるっと見渡したが真姫の姿はなかった。
「何見渡しているのよ。私はここよ」
突然の声に翔夢は驚いて後ずさりした。
数段下を見ると海を眺めながら体育座りする真姫がいたが、真姫の姿は一昨日とはまるで違っていた。
足元だけではなく体全体が半透明になっており、奥の海が透けていた。
ここまで早く精神具現化現象が悪化することは初めてだが、それは真姫の心の問題なのでここで言及することは控えた。
「まさか真下にいたとは思わなかったですよ。急にこんなところに呼び出してどうしたんですか?」
「七里ヶ浜は遊泳禁止なの。だからサーファーぐらいしかいなくて静かで癒されるわ」
答えになっているようななっていないような曖昧な返事に翔夢は会話の主導権を握られてしまった。
「私の周りは主人公みたいに輝いている人が多すぎる。遠い存在の人も、身近な人も。その人達が眩しすぎて上も向けないし目まいがするのよ。どうせ私はその人達の影で、輝くことはできない」
翔夢は「そんなことはない」と、今の真姫には何の役にも立たない言葉をかけようとしたその時、翔夢のスマホに一件の着信が入った。
スマホを手に取り画面を確認すると咲絆からだった。
「あ、そういえば真姫先輩がいたって報告し忘れてたわ。多分先輩がいなくてかけてきたんだろ」
翔夢がスマホを耳に当てると繁華街の騒がしさを背景に咲絆の声が聞こえた。
電話越しに咲絆が放った言葉は翔夢の予想を大きく超えた。
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