第28話 精神具現化現象の二乗

 翔夢と分かれた咲絆は電車を乗り継いで原宿に到着した。


 平日の原宿は普段よりいくらは空いていたが、咲絆と同じようにテストで早帰りの学生がチラホラ見受けられる。


「こんな人混みの中で真姫を見つけるなんて無理だよ」


 真姫にはどこにいるのかメッセージを送って聞いたが、一向に返信が来ない。


 竹下通りの前で咲絆があたりを見渡して探していると、突然後ろから抱きしめられた。


「やっほー!来てくれてありがとうね」


 振り向くとたしかにそこにいるのは、おとなしい雰囲気は皆無でいつもは見せない笑顔で、普段と違う距離感、口調の真姫がいた。


「真姫、だよね?」


 咲絆は思わず後ずさりをして、怪訝な表情で恐る恐る尋ねた。


「そうだよ!咲絆ったら何言ってるの」


 彼女が真姫の見た目をして、真姫だと認めたのならば咲絆はこの状況を飲み込むしかなかった。


 それに、咲絆自身も性格は違えど真姫であることは感じていた。


 咲絆は落ち着いて真姫を見ると、精神具現化現象は一気に進行していて全身が半透明だった。


「いくらなんでも精神具現化現象進みすぎだよ。遊園地に行ってから何かあった?」


 咲絆の問いに真姫は一瞬黙り込むが、すぐに首を横に振った。


「それより原宿回ろうよ!私ここに来るの初めてなんだよね!」

「いいよ。私が美味しいものがあるお店をいっぱい教えてあげる」


 咲絆は真姫の手を取り竹下通りの人混みに足を踏み入れた。



 咲絆がまず訪れた店はフローズンポップコーンという凍らせた状態で食べる新感覚のポップコーンのお店だ。


 凍らせた状態で食べれるだけではなく、一粒に三種類の味がコーティングされていてカラフルなところも人気の理由だ。


 一つのバケツに入ったのを二人で食べることにした。


 ポップコーンを一つ口に入れ噛んでいくと、食べ終わるまでに三回味が変化した。


「口の中で味が変わるなんて不思議!」

「でしょ。だから飽きずに食べられちゃうんだよね」


 目を輝かせながらパクパクと頬張る真姫を見て咲絆は母性を覚える。


 いつもはバカで子供っぽいと友達や翔夢に言われている咲絆の目からも真姫が幼く見える。


 あっという間にポップコーンを食べ終え、咲絆は次の場所に案内した。



 次に二人はわたあめが有名なお店に訪れた。


 このお店のわたあめは一色、三色、レインボーから選ぶことができ、レインボーのわたあめは顔よりも大きいのだ。


「もちろんレインボーのわたあめだよね」

「当たり前だよ!これも半分こしよ」


 二人はレインボーのわたあめを一つ購入し、顔の前に置いて写真を撮った。


 そこで咲絆は翔夢に真姫がいたことを報告するのを忘れていたことに気がついた。


「あちゃー、翔夢と分かれてから一時間以上経ってるよ。多分真姫がいなくて探してる頃だから電話してあげないと」


 咲絆は真姫にわたあめを預けて翔夢に電話をした。


「あ、もしもし。真姫はこっちにいたよ」


 咲絆はこれで真姫が学校に来なかった問題は解決したと思っていた。


 だが、翔夢から放たれた言葉はさらに問題を呼び起こした。


「は?何言ってるんだよ。俺の方に真姫先輩はいるぞ」


 咲絆は真姫の方に一瞬振り返り、凝視したが明らかに真姫だった。


「こっちにも真姫がいるんだけど……ちょっと性格が明るいけど」

「こっちにも本当にいるんだけどなぁ……ちょっと性格が暗めだけど」


 数秒の間が空き、二人は同時に同じ答えに至った。


「「あ、精神具現化現象」」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る