第24話 精神具現化現象は止まらない

 突然紅音が転校してきた日の放課後。


 紅音の歓迎会でカラオケでパーティをやることにした。


「ここがカラオケという場所なのですね!お部屋でマイクを使って歌えるなんてすごいです!」

「今日は紅音ちゃんが主役だから何でも頼んでいいよ」


 そう言って咲絆は紅音に食べ物を注文するタッチパネルを渡した。


 今日、ここに来ているのは翔夢、圭佑、紅音、冬音、咲絆、彩花の六人だ。


「今日は真姫先輩休みなのか?」

「最近はずっと休みなんだよね。多分来週に新刊の発売が迫ってるからだと思うよ」


 咲絆はスマホで真姫の出版社のサイトを翔夢に見せた。


「圭佑様の周りにはこんなにすごい人がいるなんて流石です!」

「いや、紅音がぶっちぎりで一番すごいぞ」


 紅音と圭佑の会話には二人の立場の変化が明確に現れていた。


 そんな会話をしているうちに注文した食べ物が運ばれてきた。


 その後、持ってきたお菓子を広げて歓迎会を始めた。


「圭佑、乾杯の音頭よろしく」


 翔夢に無茶振りされた圭佑は、少し気だるそうにしながらも乾杯の音頭をとった。


「じゃあ、こんな世間知らずのお嬢様だけどみんな仲良くしてあげてくれ。乾杯」

「「乾杯!」」

「過保護なお父様と同じようなこと言わないでください!」


 紅音は初対面の彩花と冬音ともすぐに馴染み、カラオケを楽しんだ。


 カラオケでは彩花と冬音がデュエット曲を大量に歌っていた。


「やっぱりこいつらできてるよな」

「翔夢が聞いてみてよ」

「えぇー。なんか触れにくいんだよな」


 二人が熱唱する裏で翔夢と咲絆が二人に聞こえない音量でひそひそと話していた。


「デュエット曲いいですね。圭佑様、私達もデュエット曲歌いましょう」

「いいぜ。こう見えても俺はカラオケ上手いんだぞ」


 そう言って二人は歌い始めた。

 二人は息ぴったりでさすが元許嫁だった。


「この流れは私達も何かデュエット曲入れないとね」


 咲絆は流れに乗って翔夢とのデュエット曲を入れた。


 歌の最中に掛け合いがあい、そこで翔夢は少し頬を赤らめながら歌っていた。


 しばらく歌った後、休憩でお菓子をつまみながら雑談していた。


「そういえばよくこの学校に転校できたよな。前はお嬢様学校だったのに」

「最初はお父様を説得しようとしましたが無理そうだったので家出してきました」


 まさかの事実に話を振った圭佑は驚いていた。


「じゃあ今はどこに住んでるんだ?」

「家出したら爺が黒いカードをくれたのでそれでアパートを借りました。入学手続きも爺に協力してもらいました」

「さすがお金持ち……。でもどうしてそこまでして?」


 圭佑がそれを聞くと、翔夢達は顔を真っ赤にして笑いを堪えていた。


「圭佑様は空気が読めるくせに恋心は読めないんですね」


 照れながら皮肉を言う紅音に圭佑は困惑していた。


「私は出会ったあの時から圭佑様が好きですよ。やっと好きな人と対等になれたので、これで圭佑様をしっかり落とすことができます。待っててくださいね」


 小悪魔のような微笑みの奥に残る恥ずかしさの赤らめは、圭佑以外も釘付けにするほどの可愛さだった。


 紅音の愛の宣言によって歓迎会はお開きとなった。



 家に着くと居候していた圭佑の荷物を翔夢が勝手に畳んで圭佑と共に追い出した。


「今、紅音さんは一人暮らししてるんだからそこに居候してこい。その方があっちも有難いだろ」

「わ、わかったよ。今までありがとうな」


 圭佑は反論の余地もなく、紅音の家に行くことにした。


「お前のやりたいように、上手くやれよ」

「それ、どっちだよ」


 二人は拳と拳を合わせて圭佑は紅音の家に向かった。


 紅音は圭佑と同棲できることを心のそこから喜び歓迎していた。



 歓迎会から一週間後。


 真姫は新刊の発売日まで学校に来ることはなかった。


 翔夢と咲絆は帰りに書店に寄って真姫の新刊を探したが、どこにもその姿はなかった。


 調べてみると、出版社のサイトには発売延期と書かれていた。


「二週間も学校を休んで間に合わなかった……なんてことはないよな」

「きっと真姫に何かあったんだよ。真姫の家行ってみる?」

「そうしよう」


 二人は急いで書店から出て真姫の家に向かった。



 真姫の家に着いて咲絆が呼び鈴を鳴らした。


 程なくすると玄関から真姫が出てきたが――


「真姫先輩が……」

「真姫が……半透明になってる!」


 出てきた真姫の膝から下が半透明になっていたのだ。


「久しぶりね。これがあなた達が言う精神具現化現象ね。やっと私の番が来たみたい」



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