第18話 友達にしか解決できないこと
二人が初めて出会ったのは高校一年のゴールデンウィーク明けだった。
円城寺家は跡継ぎのために男の子を欲しがっていたが、紅音と妹の娘二人を産んだ後に紅音の母は病気で他界してしまった。
なので今の時代では滅多にない、許嫁を見つけることにされたのだ。
高校生になってから毎日のように男性の写真とプロフィールを見させられ、土日は絶対にお見合いをする決まりだった。
そんな時――有象無象の男性の中から、圭佑の写真とプロフィールを見つけたのだ。
紅音は写真だけで一目惚れをしてしまい、すぐにお見合いの手配をした。
圭佑だけは円城寺家の資産を狙う取り繕った笑顔が得意な男性達とは違い、円城寺家に求めるものを全く感じなかったのだ。
そしてお見合い当日。
「初めまして、圭佑様。今日はお会いできて光栄です」
「こちらこそ円城寺様に選んでいただけたこと、感謝しています」
ドレスの裾を持ち、会釈する紅音にタキシード姿の圭佑は深くお辞儀をした。
写真から感じた彼とは少し印象が違った。
今の圭佑は取り繕っていなくても絶対に素は見せなく、円城寺家に求めるものはなくても自分の気持ちでお見合いに来てはいなかった。
そんな圭佑の得体の知れない部分を垣間見ても、紅音の恋心は冷めはしなかった。
――親に決められる結婚相手なら、せめて私が好きになった人じゃないと。
紅音はその時のお見合いですぐに許嫁まで持ち込んだ。
「これから私の許嫁としてよろしくお願いします。殿方との付き合いは慣れていないのでいろいろとご教授頂けると有難いです」
「こちらこそ円城寺様に合う立派な許嫁になれるように精進していきます」
圭佑は喜びの笑みを浮かべていたが、目は死んでいた。
あれから一年。
圭佑の紅音に対する敬称が様からさんに変わるなど、小さな変化はあったものの、決して心の距離は縮まらなかった。
その理由を圭佑に尋ねても
「俺は紅音さんのことが好きですよ」
と、清々しい顔で言われてしまい信じるしかなかった。
紅音が全てを語った後、二人は必死に返す言葉を考えたが全く浮かばなかった。
自分の力ではどうすることもできない家柄の責務を紅音は一人で背負い込み、全うしているのだから。
そんな人に決して同情の言葉をかけることはできなかった。
「お二人共、あまり気にしないでください。私は円城寺家に生まれたことを誇りに思っています。そしてお見合いのおかげで圭佑様に出逢えたのですから」
「何か困った事があったら私達が絶対に助けるからね!」
年下とは思えない言動に胸打たれた咲絆は紅音の手をがっちりと握って誓った。
「ありがとうございます。でも今は私より圭佑様に何かあるのですよね?きっとお友達のお二人にしか分からないことがあると思います。圭佑様をよろしくお願いします」
自分のことのように頭を下げる紅音の姿を見て、二人は涙すら出そうになっていた。
「紅音さんの話も大きな手がかりになりましたよ。あいつの悩みは絶対俺が解決するので大丈夫です」
翔夢は紅音の話から、何か大きなものを掴んだようだ。
二人はリムジンで家の近くまで送ってもらった。
リムジンが見えなくなると、翔夢はボソッと咲絆に呟いた。
「圭佑の精神具現化現象がメガネな理由がやっと分かった気がする。明日あいつに直接聞いて確証を得る」
「それ、真姫に止められたんでしょ?本当に喧嘩しちゃうかもよ」
咲絆の心配をよそに、翔夢は決心したような面持ちで咲絆に無茶な頼み事をした。
「多分、なるだろうな。これは友達ごときが首を突っ込んでいい話じゃない。でも――友達じゃないと解決できないことなんだ。だから喧嘩した時はよろしくな」
翔夢の無茶な頼み事に呆れてため息をつくが、咲絆は今まで友達を自分から作ろうとしなかった翔夢が、喧嘩をするほど友達のために尽くそうとしていることに喜んでいた。
「何ニヤニヤしてるんだよ」
「別にー。存分に喧嘩してきていいからね。思いっきりやっちゃえ!」
咲絆は勢いよく翔夢の背中を押して家まで帰った。
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