第16話 私達はまだ何も知らない

「どうして圭佑様がここに?!」

「いつもの円城寺さんなら駄々をこねて帰らないのに、今日はあっさり帰ったから怪しかったんですよ。それで辰彦さんに電話で聞いたら案の定……」


 圭佑はギロっと翔夢と冬音を睨みつけた。


 紅音は爺こと――合川辰彦あいかわたつひこをポコポコ殴っていた。


「たしかに付いてきた俺達が悪いけどよ、こんなすごい許嫁がいるなら言ってくれてもよかったんだぞ」

「そうだそうだ」

「お前らに言うとややこしい事になるから言わなかったんだよ。特に翔夢にはな」


 圭佑は紅音に席に座るように促され、渋々座った。


「御二人から圭佑様のお話はお聞きになりましたよ。私と会う時と学校では性格が全然違うじゃないですか!どうしてですの?」

「「そうだそうだ」」

「お前ら二人は黙ってろ。円城寺さんには関係ないことです。あまり気にしないでください」


 圭佑は普段と紅音に会っている時に性格が違う理由をこれ以上言おうとしなかった。


「ではそれは保留にします。なぜ学校のことも言ってくれないのですか?」

「それも気にしないでください」

「気にします!私達は来年高校を卒業したら結婚するのです!隠し事があっては困ります」


 その会話を聞いていよいよ許嫁だと疑いようがなかった。


 頑なに口を割らない圭佑に紅音は今日のところは食い下がり、この場はお開きとなった。



 帰り道、翔夢はずっと気になっていたことを圭佑に尋ねた。


「お前、紅音さんに会うときはいつもメガネかけてるのか?見慣れてないからかもしれないけどあんまり似合ってないぞ」


 圭佑は朝会ったときからずっと黒縁のメガネをかけている。


「メガネ?かけてないぞ」

「じゃあ今日初めてかけてみたのか?」

「いや、だからかけてないぞ」


 噛み合わない会話に、話を聞いていた冬音も含めた三人は困惑の表情を浮かべた。


 あることに気がついた冬音は圭佑のメガネに手をかけた。


 すると――冬音の手はメガネを貫通した。


「「あ」」

 その光景に翔夢と冬音は確信した。

「圭佑、あんたのメガネ精神具現化現象よ」

「これで四人目か。流石にもう慣れたな」


 状況を理解していない圭佑に二人は精神具現化現象を説明して、鏡で自分の目で確かめてもらった。


「本当にこんなことあるんだな。でも俺に悩みなんてないぞ」


 二人も今のままではなんとも言えないので、明日真姫に聞いてみることにした。



 ―次の日―


 翔夢と冬音は昼休みに図書室に訪れた。


 そこで本を読んでいる真姫に、圭佑のことを詳しく話した。


「早海君の精神具現化現象と許嫁の件はタイミングが同時期なこともあるから、もしかしたら繋がるかもしれないわ」

「でも精神具現化がメガネってどういうことですか?今までの現象はその人の心の悩みを表したものだったのに」


 翔夢の言う通り、今回は悩みが具現化したとは到底思えないのだ。


「メガネってことは何かを見えたりすることが悩みみたいな?」

「冬音ちゃんの言うことは一理あるかもしれないわ。でも――今回の早海君の件は関わらない方がいいわ」

「どうしてですか!」


 翔夢は思わず机を勢いよく叩いて立ち上がってしまった。


「もし、許嫁が関係しているならそれは早海君の家の問題よ。私達が首を突っ込んでいい話じゃない」


 真姫の核心を突いた正論に二人は反論できなかった。


「でも俺は……あいつが何かに悩んでいるなら少しでも手伝ってやりたい」


 そう言って翔夢は立ち上がり、図書室から出て行こうとした。


「そう、なら止めないわ。でもこれだけは心に留めておいて。無理に首を突っ込むと二人の関係が悪くなる可能性があるのと――私達はまだ、早海君について何も知らないことを」


 翔夢は険しい表情で図書室を出て行った。

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