第5話 認めてもらう素顔
昨日の夜、翔夢は精神具現化現象を解決するかもしれないある秘策を思いついた。
まだ確証はないので真姫と咲絆を使って実験することにした。
家を出るといつものように家の前で咲絆が待っていた。
「おはよう翔夢」
「おはよ。突然だけど今日の放課後空いてるか?」
「うん。空いてるよ」
「それじゃあ真姫先輩にも聞いておいてくれ」
「真姫も必要ってことは彩花ちゃんのこと?」
どこかに遊びに行くと思ってたのか、咲絆は首を傾げていた。
「うん。もしかしたら彩花の精神具現化現象を解決できるかもしれない」
「分かった!その事なら真姫は多分来るよ」
話しているうちに学校に着き、二人はそれぞれの教室に向かった。
―放課後―
校門の前に真姫、咲絆、彩花が揃っていた。
「先輩。今日は真姫先輩と咲絆先輩も一緒なんだ?」
「おう。今日はこの二人にコスプレをしてもらおうと思って」
「「え?」」
「ちょっと、咲絆さんからはそんなこと聞いてないわ。嫌ではないけれど恥ずかしいわ」
「私もコスプレって少し興味あるけど恥ずかしいよ」
「大丈夫だ。彩花が二人に似合ったコスプレを用意してくれるし二人はアニメの知識だってあるからきっと楽しいぞ。よろしく頼むぞ、彩花」
「う、うん。人にコスプレさせるのって初めてだけど頑張る」
彩花は強ばった顔で頷き、みんなを家に案内した。
「絶対覗いちゃだめだからね」
「覗いたら、わかってるわよね?」
二人は念入りに翔夢に釘を刺して別室に入っていった。
別室ではまず二人が着れるコスプレを見つけるため、彩花が二人の身長を聞いていた。
「私は160センチよ」
「私は155センチだよ」
「分かりました。では次にカップを教えてください」
二人は見合って顔を真っ赤にした。
そして万が一隣の部屋にいる翔夢に聞こえないように小声で呟いた。
「私は……Eカップよ」
「私はFカップかな……ははは」
「うそ、私よりも身長は低いのに胸は大きいの?!」
「うるさいなぁ!EもFも誤差だよ!」
「よかった。二人とも私とさほど変わらないのでほとんどのものは着れますよ」
その言葉を聞いて二人は彩花の胸を凝視した。
「ちなみに須賀さんは……何カップ?」
「Fカップですけど」
それを聞いた真姫は真っ白になり膝から崩れ落ちた。
「私、三年生よ……」
真姫を見て二人はただ苦笑することしかできなかった。
真姫が元気を取り戻すと二人はコスプレ選びをした。
何着か選び、二人は彩花にアドバイスをもらいながら着て翔夢のいる部屋に入った。
「一着目からすごいもの選んだな」
真姫は自分が書いているラノベの登場人物のコスプレで魔術師のような衣装なのだが、お腹と胸元は黒タイツのような素材で丸見えになっていてとてもエロい。
「自分の作品のコスプレがこれしかなかったのよ!次からはキャラに着せる服の露出度を考えるわ」
「私はぱぱの小説のキャラのコスプレだよ」
咲絆は女騎士のコスプレをしていてマントをひらひらさせている。
咲絆の父親もラノベ作家で、咲絆の母親が担当編集者なのだ。
「すごい似合ってるぞ」
「え、うそ!咲絆先輩のお父さんってあの
「そうだよ。ほんと私達の周りってアニメ関係の人多いよね」
「それは俺のおじさんが原因だな」
その後もアニメキャラの水着衣装や婦警の衣装、バンパイア衣装にVTuberの衣装など二人のコスプレ披露会はとても盛り上がった。
最初は恥ずかしがりながらコスプレをしていた二人も、徐々に表情が砕けて楽しんでいた。
それを見ていた彩花の仮面はもう目を凝らさないと見えないまでに色が薄くなっていた。
あと一押しで彩花の精神具現化現象は解決するだろう。
そしてその一押しはもう既に分かっていた。
二人が着替えに隣の部屋に入った時、翔夢は手鏡を彩花に見せた。
「うそ、もうほとんど仮面が見えない。もうすぐ解決するってこと?」
「そうだ。それに解決の糸口はもう自分でも分かっているんじゃないか?」
「分かってる……でも怖い。咲絆先輩と真姫先輩はアニメが好きだからコスプレも楽しんでくれたけど、友達はアニメ全く見ないから気持ち悪がられるかも」
「本当の友達なら人の趣味を気持ち悪いなんて言わねぇよ。友達にコスプレを好きになってもらうのが目的じゃない。彩花の趣味を、素顔を認めてもらうんだ。それが精神具現化現象を解決するための方法だ。俺も手伝うから明日友達にちゃんと伝えるんだぞ」
「分かった……頑張る」
―次の日―
昼休みにわざと一年生の階を歩いて彩花の教室まで向かった。
一年生に注目を浴びながら歩いているとお目当ての集団に声をかけられた。
「翔夢先輩だ!一年生の階に来るなんて珍しいですね。何か用事があるなら手伝いましょうか?」
声をかけてきたのは彩花の友達で、よくバスケを見に来る子達だ。
「今日は君たちに用事があって来たんだ。今日の放課後空いてるか?」
女子達は驚きの表情で顔を見合わせた。
「も、もちろんです!放課後楽しみにしてます!」
予想外だったのか、女子達はすぐさま教室に戻ってしまった。
「こういう手は使いたくないんだけど……まぁ彩花のためか」
そして放課後になり、校門前に行くと呼んだ女子達が揃っていた。
俺の数歩後ろを彩花が歩いて来た。
「あれ、彩花も呼ばれたの?」
「自分はみんなに見せたいものがあって今から私の家に来てもらいたいのだけどいいでしょうか?」
「いいよ。翔夢先輩と彩花って最近仲良いもんね」
「趣味が合うんだ」
「彩花の趣味ってなんかあったの?」
「うん。家に着いたら教えるわね」
翔夢は彩花の家に向かっている途中、嫌という程話しかけられたが、何とか顔には出さなかった。
そして彩花の家に着いた。
「彩花の家って何気に私たちも初めてだよね」
彩花の友達は興味深々にしていた。
「この部屋でちょっと待っててね」
彩花は隣の部屋にコスプレに着替えに行った。
数分すると隣の部屋の扉が開いた。
そして初めて、彩花はコスプレ姿を友達に見せた。
「私の趣味はコスプレなんだ。どう、かな?」
彩花の顔は不安で塗りつぶされているが、しっかりと友達を見ている。
「すごい意外。でも彩花めっちゃ似合ってるよ。正直私たちアニメは分からないけどすごいかわいい」
「ほんと?よかった……」
「それにその話し方、それが彩花の素でしょ?」
「う、うん。隠しててごめん。コスプレとか素がバレたら嫌われると思って」
彩花の言葉に女子達は笑っていた。
「そんなわけないじゃん。それに私たちその話し方の方が好きだよ」
「コスプレちょっとしてみたいかも」
「私も!」
彩花の素顔は一瞬で受け入れられ、コスプレに興味を抱く人もいた。
「いっぱいコスプレする衣装あるんだ!みんなで着てみない?」
「「着たい!」」
彩花の顔は明るくなり、友達と一緒にコスプレをする彩花の顔は今までで一番の笑顔だった。
彩花に必要だったのは素顔を認めてもらうことだった。
彩花の友達に素顔と趣味がバレたら嫌われるという不安は完全に消え去った。
そして、いつの間にかに仮面はなくなっていた。
これで御役御免になった翔夢は適当な言い訳をでっちあげて先に帰った。
彩花の家を出ると彩花が追いかけてきた。
「先輩、本当にありがとう」
「これをきっかけにあいつらがコスプレ仲間になるといいな」
「うん!先輩にはお世話になったから恩返しに咲絆先輩の精神具現化現象を解決するの手伝うよ」
「ありがとな。じゃあまたな」
こうして仮面は消えて、彩花は友達に素顔をさらけ出すことができた。
数週間後、秋葉原でコスプレ衣装を買い物する彩花と友達の写真が送られてきた。
すっかり友達もコスプレの沼にハマったようだ。
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