第2話 別世界のもの
私は、妖魔退治をどこか遠いもの、別世界のものとして見てきた。
「きのうさ、橙子ちゃんのお父さんがさ、お兄ちゃんのツキモノをとってくれて、お兄ちゃん元気になったんだよ」
小学校で父上の仕事ぶりが話題になることがあった。どこか遠い存在の有名人やらヒーローについて話している感覚だった。
それなのに。
「ね、橙子ちゃんもオバケ見えるの?」
「どうかなぁ」
私のことも聞かれ、笑ってごまかした。
友だちといる世界が私にとっての現実で、父上の世界は非現実のようであった。
けど、友だちがいるところも別世界のようにも感じていた。彼らが見ている世界と私の見ている世界は違い、完全にはわかり合えない。
だから、自宅から電車で一時間ほどかかる場所――私と父上のことを知らない人ばかりの町の高校に進学した。私はここで普通の女子高生としてスクールライフを満喫、妖怪や妖魔退治を遠い存在だと思いこんだ。
なのに、存在を消そうとしていたのに、修行の話が持ちあがった。
「継ぐ気があるなら、十五才のさいごの十五夜を過ぎた翌日から修行を始める。そういう決まりだ」
父上がいつものごとく一方的に告げてきた。
このときばかりは、柔順に聞きいれられなかった。
「なんで。私、女なのに。弟の
「いまはそういう時代でないだろう」
衝撃的だった。和服姿でキセルを吹く古くさい父上からそんな言葉がでるなんて。
「橙子には妖気を感ずる高い能力がある。それを妖魔退治に生かせないのはもったいない」
そのとき父上はめずらしく私の頭をなでて、下駄をつっかけ仕事へとでかけていった。
温かい手だった。ぬくもりが頭上からおりてきて、私を包みこんだ。
それは、心の底をわきあがらせ、温かい
だけど、せっかく普通の女子高生として過ごせているのだからと、家業を継ぐことをすんなり決心できなかった。このまま妖魔の存在を遠いものとしておけば、普通の女子大生として過ごせるのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます