第4話 兄妹の誓い
「そういや、俺はどこにいるの? 病室って感じだけど」
麗奈達と話して少し落ち着いた出雲は、周囲を見渡してどこにいるのか気になり始めていた。あれだけの重傷を負っていたのに体が多少痛いだけなのもおかしいと思い、それも同時に聞くことにする。
「それに体を斬られたのに傷跡がないんだけどさ、これって何があったの?」
疑問に思うことをマシンガンのように聞くと、リンゴを口に突っ込まれてしまった。
「とりあえず落ち着いてください。お姉様が教えてくれますよ」
「ふぁふぉしてふぉ、フィンゴ入れないふぇ!」
言葉にならない言葉で入れないでと言うと、麗奈が待ってねと静止をしてくる。
どうしたのかとリンゴを食べながら考えているとどこかに電話をかけ始めたようだ。
「スマートフォン持っていたの?」
「これは支給されたやつよ。プライベート用はお兄ちゃんと一緒で持っていないわ」
「そうなのか。いつか買ってあげたいな」
「ありがとう。あ、もうすぐ来てくれるみたいよ」
「来てくれる? 誰が?」
一体誰が来るのか心臓の鼓動を早くして待っていると、部屋の扉が静かに開く。
そこには桜花を渡してくれた琉衣子と黒いスーツを着ている精悍な顔つきで体格が良い男性が現れた。短くカットしている黒髪を触りつつ、真っ直ぐに出雲の方を見てくる。
「待たせたな。それで、君が麗奈君の兄である出雲君かな?」
「さっきから何度もいているじゃないですかー。ベットにいるのが出雲っちだって」
「そうだったな。すまん」
部屋に入って来た琉衣子と男性を見た麗奈と美桜は、静かに座っていた椅子から立ち上がって頭を下げた。
「来ていただきありがとうございます。ベットにいるのが私の兄である黒羽出雲です」
頭を下げながら麗奈が紹介をしてくれた。
その姿も今まで見たことがなく、社会人として学生でありながらも立派に活動をしていると思い知らされる。
「琉衣子君に聞いた通りだな。君が桜花に選ばれた出雲君だね」
「あ、はい。俺が黒羽出雲です」
返事をすると品定めをするように全身を見てくる。
どのように考えているのか、麗奈のように戦えなかったことを考えているのか分からない。その動作一つ一つを見るたびに心臓の鼓動が皿に早くなるのを感じた。
「まだまだ未熟だが、桜花に選ばれたからには強い才能を秘めているということだ。妹である麗奈君やその友達である美桜君に教わりながら精進をするといい」
「ありがとうございます」
未熟。
そりゃそうだ。初めて武器を手に取った麗奈のように戦えなかったし、全く役に立たなかったからな。だけど、弱くても守れるように強くなりたい。
「弱くても守れるようになります!」
「その意気だ。あとは琉衣子君から話を聞いてくれ。私はこれで失礼をする」
その言葉を発しながら部屋から男性は出て行った。
未だに名前が分からないが、相当偉い人なのだと察しはつく。琉衣子は一度咳ばらいをすると、説明をするわねと言葉を発した。
「麗奈っちや美桜っちは非公開組織である日本騎士団に所属をしているの」
「日本騎士団? 日本なら武士とかじゃないんですか?」
「いずれ公開される組織だから、格好いい名前にしたかったみたいよ」
まさか格好いい名前で組織名を決めるとは思わなかった。
確かに現代であれば騎士とついた方がいいかも知れないけど、日本的な名前もいいのかもしれないのにと一人で考えてしまう。
「話がずれたわね。この日本騎士団は一世紀以上前から存在をしている組織で、昔から特殊能力を用いた犯罪や、白銀の翼と戦っているの。あのヴァイスとかいう女が桜花を敵視していたのは、以前に所持していた人と関りがあるのかもしれないわね」
「桜花を以前持っていた人……その人は今いるんですか?」
「いないわ。日本騎士団が発足してから桜花に選ばれた人はいないから、一世紀以上前に所持をしていた人がヴァイスと何かあったのかも」
一世紀以上前か。遠い昔から白銀の翼との戦いがあったのなんて知らなかったな。
麗奈も知った時はこんな感情だったのか? いや、麗奈のことだからすぐに受け入れて動き出すはずだな。
「それで、これからの出雲君だけど麗奈っちと同じように日本騎士団で活動してもらいます」
「そうなりますよね。だけど、学校があるんですけどどうすればいいですか?」
「卒業までは学業と両立でいいわよ。放課後に何かあったら呼ぶし、国からの命令で公欠にしてもらうから。高等学校への進学は要相談ね。義務教育期間だけで充分だと思うけどねー。何かあれば国が雇用してくれるように、私が働きかけてあげるわ」
「ありがとうございます!」
公欠と聞いてそれはいいと思うが。麗奈がここ一年学校を休んだことがないので、いつ活動をしていたのかと疑問に感じてしまう。
「麗奈はいつ活動してたんだ? いつも俺と一緒じゃなかった?」
「うん。例えば寝静まった深夜とか、休日にたまに遊びに行くって時あったじゃない? そういう時に任務をしていたわ」
「そうだったのか。楽しく遊んできたのかなと思っていたら戦っていたんだね」
「ごめんね、お兄ちゃん。だけど、私は選ばれたからこの力を平和のために使いたかったの」
麗奈の言いたいことは分かる。商店街で話したときに特殊能力のことを話して、麗奈は何か答えに辿り着いた顔をしていた。
あの時に平和のために使うこと、人々のために自身の力を使うことに決めたんだな。俺はまだ上手く制御できていないけど、いずれ麗奈のように使いこなしたいな。
「いいよ、麗奈の気持ちは分かってる。これからは俺も一緒だからさ、二人で助け合っていこう」
「ありがとうお兄ちゃん!」
ベットにいる出雲に抱き着いた麗奈。
美桜は尊いと連呼をしながら恍惚とした表情をしていたが、触れてはいけないと思い放っておくことにした。
「そういえばまだ言っていなかったわ。さっき話していた男は日本騎士団の団長である東堂龍雅よ」
「団長だったんですか!?」
麗奈の耳元で大声を発してしまった。
耳が痛いと言われたので謝ると、琉衣子が私は研究開発部の部長様だと胸を張っていたのである。
「結構偉いのよ、こう見えて。神器の研究や騎士の装備を作ったり色々しているみたいなの」
「ですですー! 琉衣子さんは凄いですよー!」
尊いといい続けていた美桜が琉衣子は偉い人だと言葉を発した。
どこか胡散臭い人だとは思っていたけどそんなことはなくて、ただただ凄い人だった。桜花のことやこれからのことを沢山聞いていきたいものだ。
「一気に話しすぎたわね。ここは国の意気がかかっている特殊な病院だから、ゆっくり過ごしてね。治癒力を高める特殊能力を持っている日本騎士団の職員に治療してもらったからもう傷はないでしょ?」
「はい! ありがとうございます!」
「元気でよかったわ。各種手続きはこちらでしておくから、日本騎士団の一騎士として活躍してね。これから白銀の翼も活発になると思うから、そこも覚悟をしてね」
「分かってます。俺は弱いけど、守るために戦います!」
ガッツポーズをして琉衣子に宣言をすると、期待をしてるわと言葉を発して美桜を連れて部屋を出て行く。
一緒にいたいと美桜が騒いでいたが、琉衣子が口に手を当てて引きずるように連れだすのを見て意外と面白い子だと微笑しながら考えていた。
「麗奈は帰らなくていいのか? 婆ちゃんが心配してない?」
「琉衣子さんが日本騎士団のことを伏せて説明をしてくれたから平気だよ。国家公務員だから、すんなり説明に納得してくれたわ」
「国家公務員なんだ。そりゃ国の非公開組織だもんな」
「お兄ちゃんもそれに関われるんだよ? 一緒に国を守ろうね!」
「おう。一緒に守っていこう」
何年かぶりに麗奈の手を握った。とても小さくて柔らかいこの手が、剣を持っていた。今にも崩れそうなこの手と剣で麗奈は『平和』を一人で守り続けていたのだ。
美桜がいたとはいえ、俺に活動がバレる心配もあっただろう。だけど、それでもバレずに平和を守っていたのはとてつもないプレッシャーだったはずだ。俺が守って支えていかないと、いずれ後悔をする気がする。
「守るよ。大切な妹だからな。麗奈には幸せでいてほしいから、全てが終わったら普通の人生を歩もう」
「うん……二人で普通の人生を……ね……」
涙を静かに流しながら麗奈は何度も頷いている。
出雲は流れる涙を指で拭いながら不安を拭っていこうと、優しい口調で発した。
「そうだよね。せっかくの兄妹なんだからね」
「うん。二人で一つだ」
いつもの麗奈の顔だ。
この顔でいられるように頑張らないとな。微笑んで顔を見ていると、帰るわねと椅子から麗奈は立ち上がった。
「そうだね、気が付いたらもう夜遅いな。気を付けて帰ってね」
「ありがとう。お兄ちゃんはゆっくり休んでね」
「そうするよ」
麗奈が手を大きく振りながら扉から出て行く姿を見送ると、ベットに入って布団を被って眠ることにした。
「桜花に選ばれて、白銀の翼という特殊能力者が集まっている犯罪組織と戦って、体を斬られてた。生きていたけど、あそこで死んでいたかもしれないんだな」
生きていたことに感謝をしながら、麗奈を守るために強くなりたいと願う。
桜花を上手く扱えるようになりたいし、火属性も制御をしたい。やりたいとこや出来ることは違うかもしれないが、麗奈を守るためにはすべてを出来なければならない。
「やるしかない……やるしかないんだ。俺は弱くても守れる強さを手に入れる!」
出雲しかいない静かな部屋に自身の声を響かせながら宣言をした。
これから多くの困難が襲い掛かるが、その全てを越えなければならない。甘く考えている部分を意識しながら、出雲はこれからの活動をことを考えつつ静かに眠りに落ちた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます