9歳 授与式④

その日の晩餐会。

メインは隣国の使節団になるはずだったが私の周りに予想通り人が集まり始める。


使節団の応対をしている侯爵家の面々以外の人が私達のもとへとやってくる。

エルフ族の美形のディー、元気に酒を飲んでいるドワーフ族のグローとオーリも目立つ要因だと思う。


父様が応対してくれているので私は後ろで話を聞きながら笑顔で相槌をする程度で済んでいる。

私にとってはまだまだ晩餐会の場は苦手、ディーの方がよっぽど上手く立ち回っている。


「ほれほれ、リゼルさんにも苦手なものがあるんもんじゃな。ペーレとクリスと一緒に勉強が必要じゃな」


「ブリード先生、まだまだ社交の場には慣れませんよ•••父様がいなかったら、どうなってることやら」


「これも一種の戦場だと思って勉強じゃな、子供らしい一面が見れて満足じゃよ」


ブリちゃん先生はニヤニヤしながら、父様の応対を例に小声で貴族同士のやりとりを指南してくれる。

未だに馴染めない私には良い経験である。



そうこうしていると、順番に待っている人が横に避けていく。こういう時は大抵問題ごとがやってくる。


第三王子とその取り巻きが私の前へとやってきた。


「俺はカズール王国の王子シェイムだ。お前が賢者リゼルか?」


「お初にお目にかかります。成人前のため、名はまだ決めておりませんがクリムロード家次男リゼルにございます。この度は遠路はるばるラビウス王国へようこそおいでくださいました」


「お前が飼っている聖獣を俺に献上しろ!王子である俺が飼い主になるべきだ!ついでにそこにいるエルフも俺の召使に加えてやる」


この世界にもジャイアイズムがあるのか!?目をパチクリしているとドヤ顔の第三王子が俺に詰め寄ってくる。周りの取り巻きの少年従士もニヤついている。

我儘にも程がある…大切な仲間を物扱いされて許せるほど私の許容範囲は広くはない。


「はぁ…どちらもお断りいたします。私はラビウス王国に忠誠を誓っております、カズール王国の臣下ではありません。私が望んで献上するならまだ理解はできますが、強要される筋合いはございません。それに私と従魔との間には契約があり、それを破棄することは不可能です。次に彼女はエルフ族の里を代表として、この国に仕えている貴族ですので召使扱いは大変に遺憾です」


「なんだと?貴族の次男坊が俺様に意見を言うのか!?」


「ここはラビウス王国です。あなたの住まれているカズール王国ではありません。ラビウス王国の法律が遵守されます。ラビウス王国では強要罪と人権法が施行されています。ですので第三王子のご要望には私は従う義務はございません。ちなみに私は陛下より爵位を与えられている男爵家です」


「ぐぬぬ•••」

煮えくり返った顔で私を睨みつける。


奥のテーブルから使節団の人がこちらにやってきて第三王子を宥めて引き離していった。


「リゼル、素敵だったよ〜。カッコよかったわ」

満面の笑みのディーが抱きついてきた。


その後は何事もなく晩餐会も終わり屋敷に戻り、今日の出来事を少し酔ったディーは自慢気に話していた。



翌日、使節団に閣下からのクレームが飛んだと噂を聞いた。

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