9歳 授与式①


使節団到着前夜、屋敷に久しぶりに父様が顔を出してくれた。


「父様、お久しぶりです。弟達は元気にしてますか?」


「2人とも元気にしてるぞ。今年の夏休みは帰って顔を見てくれ。ミゼルも会いたがってるからな」


「今年は夏休みに帰るようにします。兄上もあとで来ると言ってます」


その日は久しぶりに親子で楽しい夕食をすごした。



★☆★☆


条約締結日、王城の控室。

今回は私は家紋の授与式もあるため、個室を用意してもらっている。


ドワーフ族のグローとオーリは着慣れない正装のため窮屈そうにしている。案の定、ディーが2人を茶化しているわけだが。


「面倒なもんだな人族のしきたりは。酒を飲みながら宴にすれば良いものを…この服は首が苦しいぞ」


「人族は見た目も大事な要素なんじゃよ。リゼルさんのために少し我慢してやるのじゃ。終わったら美味い酒と肉をきっと用意してあるはずじゃ」


「ブリード殿がそう言うなら我慢するか。早く終わらんかな…酒が飲みたいぞ」


「ほんと、ドワーフ族なら頭の中は酒ばかりね〜今日はリゼルの晴れ舞台よ〜あなた達の態度もリゼルの評価に繋がるんだからね、少しは大人しくしてなさい」


「うるさいわ、エルフの小娘が!」


王城に来てもいつものやり取りで緊張感のかけらもないわけで、苦笑い。



☆★☆★



今回は公爵家、各侯爵家も参列している。

爵位の低い法衣貴族から順番に入室して行く。


男爵家の私達は早めの入室になるが4人組で多種族、さらに私に至ってはまだ成人前のためか、どうしても目立ってしまう。


「ジロジロと見られるわけで良い気分ではないね」


「どうしても目立ってしまうのは仕方ないのじゃ。今日はまだまだ目立つから諦めるのじゃ。目立つことに慣れるのも修行のうちじゃ」


慰めにもならない言葉です、ブリちゃん先生•••



各寄親を中心に指定されている席に座り待っていると、父様がやってくる。

辺境伯領から来れないフロイ様のかわりに今日は寄子のまとめ役になっている。


暫し知り合いの貴族達と談笑していると、近衛団が入室。その後に閣下と陛下が王座にやってくる。


陛下が玉座に座る。貴族たちが全員、直立し礼を取る。


その後、隣国の使節団が別のドアから入場してくる。

先頭に居るのが噂の第三王子であろう。ブスッとした表情で歩いていくる。


使節団全員が着席したところで、閣下が大きな声で調印式の始まりを一声する。


「これこらラビウス王国とカズール王国の平和条約を執り行う」


それからは平和条約の内容の説明などが読み上げられ、調印式も滞りなく行われた。


調印式の間も噂の第三王子はブスッとした表情のまま。

国を代表するリーダー役なのだからあの表情はないだろうと、王座の間にいる誰もが思っているだろう。



「これを持って、両国の平和条約を締結する」

閣下の一声の後に拍手で称賛される。


「では、引き続いて。二代目賢者リゼル男爵へ陛下より家紋を授与する。リゼル家は王座の前へ」

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